TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「ヨシキとセイコ」3

2016年07月26日 | T.B.1962年

彼は彼女の所を訪れる前に
前日の仕事の報告を済ませる為
村の中心部に寄る。

「あぁ、お疲れ様」
「いえ」
「何か変わった事は?」
「相変わらず
 同じ様な毎日です」

彼は苦笑すると
そうだな、と相手も答える

「早くこんな生活終わると良いが」

そして、少し表情を落としながら言う。

「状況が変わりつつあるようだ。
 お前の腕だ、
 またお呼びがかかるかもしれない」

また、か、と
彼は思うが静かに頷く。

「準備をしておけ、と言うことだ。
 あまり深く考えるな」

ほら、と相手が手を振る。

「考えに詰まったときは
 何か甘い物でも食べたら良い。
 帰りに買っていったらどうだ」

甘い物。

彼女は何か食べるだろうか、と
そう考えながらも
店には寄らずに彼女の元を訪れる。

彼女は寝具の上に座り
自分の足をマッサージしている。

「閉じこもってばかりだと
 色々なまっちゃうわ」

「……」

彼は彼女の横を通り過ぎると
燭台に火を灯す。

「ありがとう。
 少し明るくなった」

「今日は一日曇りの天気らしい」
「そうよね、
 いつもより薄暗いもの」

「窓、開けようか?」

彼は窓を指さし問いかける。
彼女が届かない位置にある窓。

彼女はしばらく悩み
いい、と
首を横に振る。

「お日様が見えないとね」

ほら、と
寝具の掛布を探りながら言う。

「何だか布も湿っている気がするのよ。
 そこのテーブルクロスもそう。
 天日干ししたいわ」

「次の晴天の時に
 気を掛けておこう」

分かった、と彼は笑い
立ち上がろうとしていた彼女に手を差し出す。

彼女が椅子に腰掛けると
正面に座り
いつものように会話を交わす。

しばらくすると、
彼女が小さな声で言う。

「ねぇ、やっぱり
 窓開けてくれない?」

そうだね、と頷き
彼は窓の戸板に手を掛ける。

「……いや、止めよう」

彼は窓を開けずに
席に戻る。

そう、と
彼女は残念がる事も無く、
ただ、納得する。

「外では争いが続いているのね」

そして、問いかける。

「ねぇ、ヨシキ。
 あなたはこの戦い
 いつまで続くと思う?」



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