TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と規子」8

2015年10月06日 | T.B.1962年

「なんだ?」

「馬に乗れ!!早く!!」

ハヤトは立ち上がり、
カナタを急かす。

何かが近くに居る。

カナタが馬に跨がったのを確認して
辺りの様子を伺う。

「どこだ」

耳を研ぎ澄まして
馬と同じ方向を見つめる。

「……」

何かの音や、草むらの動きを見逃さない様に。

「ハヤト、一体?」
「静かに」

ハヤトは背負った弓矢に手を伸ばす。

「居た」

カナタが何も分からないうちに
ハヤトはある一点をめがけ矢を射る。

矢は遠く飛び離れた草むらに流れ込む。
と同時に
矢が刺さった一匹のイノシシがそこから飛び出す。

「追うぞ!!」

カナタが馬の手綱を掴み先に獲物を追いかける。
ハヤトもそれを追うように馬に乗る。

カナタの馬が近づくと
草むらから更にイノシシたちが飛び出す。

「群れだったのか!!」

目的は『赤』だが、
今日はそれも難しそうだ。
必要最低限の狩りとはいえ
もう一匹何か仕留めたかった所にちょうど良い。

「ハヤト、これは僕が仕留めるぞ」

カナタは自分の弓に手をかける。
ミヤ家のハヤトには劣るが
カナタも狩りの一族、山一族。集中して矢を射る。

その際に他の事がおろそかになるため
様子を見守りながらハヤトは辺りを見回す。

逃げるイノシシたちや
追いかけるカナタの馬の蹄の音は聞こえるが

それにしても、何かがおかしい。
妙に辺りが静まりかえっている気がする。

ハヤトの馬はあれくらいの獲物じゃ
こんなに興奮はしない。

「………?」

ハヤトはふと、頭上を見上げる。

カナタの鳥がある箇所で旋回している。
ここに獲物がいると教えている証。
先程、イノシシが飛び出した草むら。

「まさか!!!!」

「カナタ、気をつけていけ!!」
「え?」

ちょうど、カナタがその草むらに接近する。

咆吼こそないが
ドッっと、大きな足音と共に
巨大なイノシシが現れる。

「ひっ!!!」

まるで、カナタ達をその草むらで待ち構えていたように。

狩りを専門とする山一族でも、
おそらくは集団で狩りを行う西一族でも
仕留めるのは難しいとされる、
人をも襲うという赤毛のイノシシ。

「赤!!!!」

「まずい、近すぎる!!」

近距離からの突然の出現に
慌てながらも
カナタは構えていた矢を赤に向ける。

が。

大きさもあり、皮膚が硬いのか
上手く当たらず矢ははじき返される。

「う……わ」

そのことで完全にパニックになったカナタが
思わず馬の横腹を蹴り上げる。
駆け出せ、という合図だ。
だが、同じくイノシシに気圧されていた馬が
その突然の合図に前足をあげ立ち上がる様な
体勢をとる。

当然、弓矢を放つため手綱から手を離していたカナタは
馬から振り落とされる形となる。

「くっ!!」

ハヤトは立て続けに矢を放つ。
一手、二手、
そちらに赤が気をとられた隙に
カナタは後ろに後ずさる。

ケガの程度は分からないが
とりあえず意識はあり
少しならば動くことが出来るようだ。

だが、カナタの馬が逃げてしまったことが痛い。
人の足では走ったとしても
とても逃げ切れる物ではない。

ハヤトの放った矢は
上手く刺さった物とそうでない物がある。

「完全に鋼鉄の皮膚という事では無い、か」

柔らかい皮膚の箇所に
上手く当たれば、という所。
矢よりも、近くで槍や斧を使わなければ難しい獲物だ。
でも、それにはまず近寄っても安全な程
体力を削る必要がある。

「一旦引きたい所だが」

まずはカナタとの距離を離さなくては。

ハヤトはカナタの前を横切るようにして
赤の目の前に詰める。
そこでも矢を数本放つ。

「こっちだ」


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