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「天院と小夜子」17

2015年10月09日 | T.B.2017年

 いつも通り。

 やることを終えた彼は、屋敷へと向かう。

 途中、先ほど彼女と別れた場所を通る。

 彼女は、いない。

 彼は、屋敷へと歩き出す。

 何だろう。

 屋敷近くが、慌ただしい。

 ふと、
 彼は、後ろを見る。

 誰かが、いる。

 ような気がした。

 けれども、そこに、誰もいない。

 おかしい。
 何かが、おかしい。

 彼は、首を傾げる。

 従弟が、屋敷から走ってくる。
 彼の姿を見て、従弟が声を上げる。

「どこに行っていた!」

「いったい何が、」

「砂一族の諜報員だ!」

 彼は、目を見開く。

「砂の諜報員が、宗主様に毒を使おうとしたんだよ!」
「砂の?」
 彼が訊く。
「捕らえたのか」
「判らない」
 従弟が云う。
「俺も話を聞いたばかりだ」
「いつから入り込んでいる」
「それも、判らない。ただ」

 従弟が、彼を見る。

「この屋敷で働いていた、使用人らしい」

「使用人が?」

 従弟が頷く。

「使用人はたくさんいるから、俺には、誰なのか判らない」
「そうか。……逃げたのか?」
「今、追っている」
「なら」
「もう、捕らえているかも」

 従弟は、彼を見る。

「お前も追え」
「判ってる」
「お前の方が、専門だからな」

 従弟が云う。

「それと、薬自体を調達した砂一族も入り込んでるはずだ」
 彼が頷く。
「包囲網は」
「張ってある」

 従弟は武器を握りなおす。

「宗主様も、向かうと云っていた」
「そうか」
「使用人も、調達した砂も、猶予はない」

 つまり

 すぐに、息の根を止めても構わないと。

 彼は、再度頷く。
 歩き出す。

「あ、待て」

 従弟が彼を呼び止める。

「思い出した」

 彼が立ち止まる。

「その使用人の父親は、確か、砂に情報を流して殺されている」
 従弟が云う。
「表向きには知られてないけれど」

 彼は、思わず、振り返る。
 従弟を見る。

「そう。確か、目に病がある女だ」



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