「……誰よ」
ある日のこと。
外出先から戻ってきた琴葉は、いつものように目を細める。
家の前に、村長がいる。
そして、
黒髪の彼。
「……両親なら、いないけど」
「ああ。両親に用じゃない」
「なら」
「君に用だ」
「私に?」
琴葉は、さらに、目を細める。
「村長が私に何の用?」
琴葉は、村長の横に立つ彼を一瞥する。
「君の結婚の話だ」
「結っ!」
突然の言葉に、琴葉は目を見開く。
「君の両親に、話はしてある」
「話をしてあるですって?」
琴葉は声を上げる。
「あいつら!」
「よろしく頼むよ」
「聞いてないし!」
琴葉は、黒髪の彼を見る。
「こいつと?」
「そう」
「はあ!?」
琴葉は目を細める。
「西の厄介者同士、まとめようってことね!」
「おい。何を云う」
村長が、彼の肩を叩く。
「狩りの腕はすごいんだぞ。厄介者なもんか」
「何よ、狩りが出来るからって」
「結婚相手のお前も、立場が出来る」
「……それはっ」
琴葉は、思わず言葉をのむ。
「悪い話じゃないだろ?」
「…………」
「お前の父親が、お前を心配していたからな」
「父さんが……」
「そうだ」
「……じゃあ。こいつ親もいないのに、準備は、」
「必要なものは、親並みに準備してやる」
村長が云う。
「何だ。正装をして、式までやりたいのか?」
「ねえ、ちょっと!」
琴葉は、彼を掴む。
「あんたも、何とか云ったらどう?」
琴葉が云う。
「私は、狩りに行けない役立たずよ! 嫌だと云いなさいよ!」
「……なら」
彼は、口を開く。
「俺は、黒髪で煙たがられているから」
彼が云う。
「村長に、はっきりと、俺のことが嫌だと云ってみたら?」
「なっ」
琴葉は、彼を見る。
それ以上、言葉が出てこない。
「まあ。形式的なものでもいい」
村長が云う。
「一緒に暮らすふりをして、それぞれ好き勝手生きるもよし。……な?」
村長は、彼を見る。
彼は、目をそらす。
それを見て、村長は、笑みを浮かべる。
が
琴葉は、ふたりの様子に気付かない。
「うちの息子を、よろしく頼む」
村長は、再度、彼の肩を叩き、歩き出す。
「え、ちょっ!」
琴葉は慌てる。
村長の姿は、もう見えない。
そして、
「あ、んた、帰らないの?」
彼は、そのまま、残っている。
彼が頷く。
「村長が、そう云った」
「……何なのよ」
琴葉は息を吐く。
彼は何も云わない。
琴葉は、彼を見る。
雨が降り出す。
「判ったわよ。とりあえず、中入って」
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