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「琴葉と紅葉」10

2016年07月15日 | T.B.2019年

「……誰よ」

 ある日のこと。
 外出先から戻ってきた琴葉は、いつものように目を細める。

 家の前に、村長がいる。
 そして、
 黒髪の彼。

「……両親なら、いないけど」
「ああ。両親に用じゃない」
「なら」
「君に用だ」
「私に?」
 琴葉は、さらに、目を細める。
「村長が私に何の用?」

 琴葉は、村長の横に立つ彼を一瞥する。

「君の結婚の話だ」

「結っ!」

 突然の言葉に、琴葉は目を見開く。

「君の両親に、話はしてある」
「話をしてあるですって?」

 琴葉は声を上げる。

「あいつら!」

「よろしく頼むよ」

「聞いてないし!」

 琴葉は、黒髪の彼を見る。

「こいつと?」
「そう」
「はあ!?」

 琴葉は目を細める。

「西の厄介者同士、まとめようってことね!」

「おい。何を云う」

 村長が、彼の肩を叩く。
「狩りの腕はすごいんだぞ。厄介者なもんか」
「何よ、狩りが出来るからって」
「結婚相手のお前も、立場が出来る」
「……それはっ」

 琴葉は、思わず言葉をのむ。

「悪い話じゃないだろ?」
「…………」
「お前の父親が、お前を心配していたからな」
「父さんが……」
「そうだ」
「……じゃあ。こいつ親もいないのに、準備は、」
「必要なものは、親並みに準備してやる」
 村長が云う。
「何だ。正装をして、式までやりたいのか?」

「ねえ、ちょっと!」

 琴葉は、彼を掴む。

「あんたも、何とか云ったらどう?」
 琴葉が云う。
「私は、狩りに行けない役立たずよ! 嫌だと云いなさいよ!」

「……なら」

 彼は、口を開く。

「俺は、黒髪で煙たがられているから」
 彼が云う。
「村長に、はっきりと、俺のことが嫌だと云ってみたら?」

「なっ」

 琴葉は、彼を見る。

 それ以上、言葉が出てこない。

「まあ。形式的なものでもいい」
 村長が云う。
「一緒に暮らすふりをして、それぞれ好き勝手生きるもよし。……な?」

 村長は、彼を見る。
 彼は、目をそらす。

 それを見て、村長は、笑みを浮かべる。

 が

 琴葉は、ふたりの様子に気付かない。

「うちの息子を、よろしく頼む」

 村長は、再度、彼の肩を叩き、歩き出す。

「え、ちょっ!」

 琴葉は慌てる。
 村長の姿は、もう見えない。

 そして、

「あ、んた、帰らないの?」

 彼は、そのまま、残っている。
 彼が頷く。

「村長が、そう云った」

「……何なのよ」

 琴葉は息を吐く。
 彼は何も云わない。
 琴葉は、彼を見る。

 雨が降り出す。

「判ったわよ。とりあえず、中入って」



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