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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」8

2015年07月24日 | T.B.2019年

「ねえ」

 それから数日後。

 紅葉は、琴葉を見つけ、声をかける。

「琴葉、ちょっと!」
「何よ」

 琴葉は面倒くさそうに、立ち止まる。

「この前の、何?」
「何、て、何よ」
「この前、あなたが肉をもらいに来た日のこと!」

 琴葉は、判っている。
 紅葉が云いたいことは。

「彼。あなたのこと、紅葉、て、呼んだわ」
「……そう?」
「なぜ?」
「聞き間違いじゃない?」
「いいえ」

 紅葉が云う。

「あなたを見て、紅葉と云っていた」
「間違えたのかしら」
「嘘をついたのね!」

 紅葉は、琴葉の腕を掴む。

「紅葉は私よ!」
「ええ。いいじゃない、それで」

 琴葉は、紅葉を振り払う。
 歩き出す。

 ゆっくりと。

「待って、琴葉!」
「悪かったわよ」

 琴葉は歩きながら云う。

「あいつが、どれだけ引きこもりか、確かめようとしたの」
「確かめた?」
「確かめたと云うか、試したと云うか」

 琴葉が云う。

「隠れて暮らしているのなら、あなたのことも知らないだろうと」
「…………」
「ほら。黒髪だし」

 琴葉は息を吐く。

「でも、……狩りにも参加して、普通に西一族やってるのね」
「琴葉、」
「私と同じかと思ったら、大違い」

「琴葉……」

「でも、西の厄介者と云うところは、同じかな」

 紅葉は、琴葉の後ろを歩く。

「……ねえ。ちゃんと、あなたの名まえを教えてあげたら」
「いい」
 琴葉は首を振る。
「もう、話すことも、……会うこともないだろうし」

「あの人の名まえは?」
「名まえ?」
「知ってる?」
「知らない」
「教えてあげる」
「いいよ」

 紅葉は立ち止まる。

 琴葉は、立ち止まらない。

 紅葉は、その背中に声をかける。

「琴葉も来なよ」
「どこに?」
「狩り」
「行かない。出来ないし」
「うちの班の準備、手伝ってよ」
「…………」
「狩りから戻って来たら、肉を捌くの、ね」

 紅葉が云う。

「あなた、肉は捌けるでしょ」

 琴葉は答えない。

「一緒に、広場に行こう」

 琴葉は首を振る。

 ゆっくりと、歩く。

「紅葉ってば!」

 琴葉は振り返らない。

 手を上げる。
 云う。

「迷惑、かけたくないし」



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