「天樹……」
誰かの声。
「おい、天樹!」
天樹は、薄く目を開く。
ここは、
……東一族の村のはずれ。
「しっかりしろ!」
「……辰樹」
「大丈夫か?」
辰樹の問いに、天樹は頷く。
「……悪い、」
辰樹は、顔を曇らせる。
「俺のせいで、しくじった」
天樹は、横になったまま、首を振る。
「辰樹、……身体は?」
「俺は大丈夫」
辰樹が答える。
「軽かったから、毒もすぐ抜けたらしい」
辰樹は、天樹を起こそうとする。
「今、病院へ」
「大丈夫」
天樹は、自身の手を掲げ、それを止める。
「血は、……乾いているな」
「無理だ。動くな」
「大丈夫」
天樹は、再度云う。
「宗主様への報告は、俺が行く」
「天樹……」
「お前は、病院に向かえ」
「俺の怪我は大したことない」
「だめだ」
天樹が云う。
「もし、砂の毒が残っていたら危険だ」
「なら、一緒に!」
「それに、砂の浄化薬の作り方を、医師様に届けることが優先だ」
「天樹、」
辰樹は天樹を見る。
「お前も、連れて行く」
「いや。俺は、宗主様のところに」
「天樹」
天樹は、目をつぶる。
「宗主様に失敗を咎められるのは、ひとりで十分」
「なら、しくじった俺が行くさ!」
「動けるうちに、その紙を医師様に渡してほしい」
「天樹……」
「辰樹、頼む」
天樹の目は閉じたままだ。
辰樹は、立ち上がる。
「すぐに、戻る」
「大丈夫だって」
天樹は、目を閉じたまま、云う。
「……ここは東一族の村なんだから」
立ち去る音。
天樹は、ただ、音を聞く。
立ち去る音は、やがて、消える。
天樹は、少しだけ目を開く。
ひとりで地面に転がったまま、空を見る。
日が落ちている。
あたりには、誰もいない。
そろそろ起きようか。
戻って、宗主のところへ行かなければならない。
まだ、やらなければならないことも、ある。
……仕方ない。
天樹は起き上がる。
と
身体に痛みが走り、顔をしかめる。
腕で、肩を押さえる。
見ると、身体に血が付いている。
血が、やっと止まったような痕跡。
天樹は息を吐き、立ち上がる。
思ったより、動けそうだ。
ただ、非道い格好、だが。
人に会わないよう、天樹は、宗主の屋敷に入る。
宗主がいる場所へは、迷わず、たどり着ける。
遠のきそうな意識で、天樹は歩く。
NEXT