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「燕と規子」7

2016年03月15日 | T.B.1962年

燕は朝から実家に向かう。

午後からは
予定を入れているので
嫌なことは早めに終わらせたい。

「ただいま」

朝食の片付けをしている時間。
燕は実家の玄関を開ける。

「来たのか」
「……あれ、兄さんは?」
「居ない。出かけている」

父親は読んでいる本から
目線を話すことなく応える。

「ふぅん、
 恋人の家にでも泊まってきたのかな」

「そんな言い方
 止めて頂戴」

母親が燕に声を飛ばす。
止めても何も、事実だろうに。

「何の用?」

「帰って来てるから
 顔見せに」

笑顔を崩さす、燕は応える。

その飄々とした態度が気に入らないと
母親が言っているのを知っていて。

「帰って来て何日だ。
 その日に来い」

父親がやっと本を閉じる。

「ごめんなさい。
 立て込んでいてさ」

ならば、なぜ
そちらから顔を見せない。
帰って来たことは
兄から聞いているだろうに。

「用はそれだけなの」
「そう、
 それだけだからもう帰るよ」

母親はお茶を入れるべきかどうか
手を止めている。

何も言わずにそっと出してくれたら
燕もきっと、そのまま席につけただろう。

じゃあね、と
玄関に立っても
父親は相変わらず顔を上げない。

「もっと、まめに挨拶に来なさい」

母親の言葉は形だけ。
やっと出て行って安心しているのは
分かっている。

両親にとって
燕の存在は目障りな物で

特に母親は
父親からも不貞を疑われては
つらい扱いも受けたのだろう。

玄関を出て家を振り返り
燕は呟く。

「かわいそうに」

今、燕が両親に思う事と言えば
それぐらいだ。

「さて、用事は終わったし。
 やっぱり楽しみは
 後にとっておく方が良いな」

燕は自宅に向かって歩き始める。

午後には、妻も誘って
規子の家で食事をとる予定だ。

約束をしていた食事。

兄もやってきて
昔なじみが揃う。

「皆が揃うのは久しぶりだ」

狩りの成果を出すことで
村での地位は何とか保っているが

瞳の色の事があっても
最初から傍にいてくれたのは
兄と規子だけだった。


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