TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」25

2018年12月21日 | T.B.2019年


「今日の狩りは、長居は出来ないな」
 その言葉に、もうひとりが頷く。
「雨が降るわね」
「遠出はやめるか」

 涼がひとりで狩りをした日から、しばらく。
 また、狩りに出ることになる。

 けれども、空の雲行きは怪しい。

 涼も、判ったと頷く。

「いや、」

 と、そこで狩りの班長、誠治が声を出す。

「ぎりぎりまで、獲物は追うぞ」
「え?」

 狩りの班は顔を見合わせる。

「誠治、危険だわ」
「そうだ。ある程度で引き返そう」
「大丈夫だって!」

 誠治は首を振る。

 涼はその様子を見る。
 不安に思うふたりと違い、誠治は長く狩りをするつもりなのだ。

「さあ、山に入るぞ」

 納得がいかないふたりをよそ目に、誠治は荷物を持つ。

「今の時期は、食糧が足りないからな!」
「そうだけど……」
「雨が降ったらすぐに中止しよう?」
「判ってるって!」

 狩りの班は、山へと入る。

 連日の雨。

 4人は、足場の悪い道を歩く。

 途中から、道がなくなる。
 背の高い草が生い茂っている。

「天気も怪しいのに、この先は無理じゃない?」
「誰も近寄ってないぞ、こりゃ」
 誠治が首を振る。
「だからこそ、この先の獲物は油断をしているだろ?」
「まあ、……」
「そうだろうけど……」

 誠治は草をかき分け、進み出す。

 ほかのふたりは息を吐く。
 それに、続く。

 涼は一番後ろを歩く。

「近くにいるか?」
「いる」
「武器は持っているわ」
「油断するな」

 なるべく音を出さないように、進む。

 誠治はひとりで先を歩く。

 草だらけの道。
 途中途中で、帰りの目印を付ける。

 4人とは違うところから草木の揺れる音。

 やがて

 山間の川へとたどり着く。

 川は大きい。
 真ん中は深く、流れが速くなっている。
 川岸は、石場になっている。
 大きな岩が転がっており、身を隠すことも出来る。

 武器を持つ。

 4人は二手に分かれる。

 手慣れたように、狩りをする。
 獲物を捕る。

 そんなに大きくはないが
 それでも、短時間で十分な量。

「もう、いいだろう、誠治」

 遠くの空から音がする。

「降り出す前に下りはじめましょう」

 ふたりは支度をはじめる。

「まだだ」

「誠治!」
「何を云うの」

「ここで待ってろ」

 誠治は走り出す。

「ちょっと!」
「おい誠治!」

 誠治の姿はあっと云う間に、消える。

「おい!」
「誠治ったら!」

 …………。

 …………。

「誠治……」

 取り残された3人は、その場に立ち尽くす。

「この獲物じゃ足りないのかしら?」
「他のやつより秀でていたいんだ、誠治は」
「でも、……何だか落ち着かなかったわね」
「心配だな」
「どうしましょう?」

 ふたりは、涼を見る。

 でも、涼と視線は合わない。

 涼が云う。

「降り出したら、山を下りよう」
「ええ」
「そうだな」

 涼は頷く。

「俺は、誠治を追う」

「え?」
「でも」

「降り出したら、ふたりで先に下りてくれ」
「ひとりは危険だって!」
「大丈夫」

 涼が云う。

「誠治を連れて、すぐに行く」



NEXT

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする