雨が降り続いている。
琴葉は外を見て、窓を閉める。
出来上がった料理を運ぶ。
「ほら、食べなさいよ!」
琴葉は、音を立てて、皿を置く。
彼は首を傾げる。
「誰か来る?」
「は?」
「料理がたくさん……」
「うちは割と裕福なの!」
「どう云う意味?」
「いいから!」
「いいの?」
「判ったわよ、料理ぐらいちゃんとやるわよ!」
「いつもやっていると思うよ」
「やるのよ!」
「誰と話してるの?」
「いいから、肉よ、肉!」
「うーん」
彼の返事は、相変わらず、歯切れが悪い。
「肉は、」
「好き嫌いしてるんじゃないわよ!」
「代わりに食べて」
「黙って食べなさい!」
仕方なく、彼は席に着く。
琴葉も坐る。
手を合わせ、祈る。
彼はその様子を見る。
「食べるわよ!」
琴葉は料理をつまむ。
彼は、料理を眺める。
手を出そうとしない。
「ああ、もう!」
琴葉は、野菜がのった皿を彼の前に出す。
「芋とかなら食べるでしょう」
「焼いたの?」
「蒸かすって云うの」
「落ち葉を集めて、」
「それは外でやる焼き芋でしょう」
琴葉は笑う。
「おいしいよね。やったことある?」
「人がやっているのを見てた」
「ふーん」
「君もやるの?」
「やってもいいわよ」
琴葉は彼の皿を持つ。
「晴れた日にね。落ち葉は集めてよ」
「いいよ」
琴葉は、芋と豆の料理を彼の皿に取る。
これなら、彼も食べる。
「あーあ」
琴葉は息を吐く。
「あんたの親、おいしいものを食べさせてくれなかったのね」
「そんなことはないよ」
彼は首を傾げる。
「……いや、そうなのかな?」
「肉なんか、出してもらえなかったんでしょう」
「食べ物には気を付けろって」
「何でよ」
「毒が入っているかもしれないから」
「どう云う状況!」
琴葉は目を細める。
「人生損してるわね」
「そう?」
「そうよ!」
琴葉は肉を食べる。
「毒なんか入っているわけないでしょ」
「あるよ」
「えぇえ」
「よくあった」
「それ食べたの?」
「食べたよ」
「お腹壊すし!」
「そんなもんじゃない」
「どう云う状況!」
琴葉は、首を振る。
「とにかく、うちの料理は全部食べなさいよ」
「うーん」
「返事は?」
「……判った」
彼が云う。
「今度、狩りに行くけど」
「狩り?」
「そう」
「いつ?」
「今度」
「ふーん」
「もしかしたら、……」
「何?」
琴葉は食べながら云う。
「何か獲ってきてよ」
「まあ、出来れば」
「出来るでしょ」
「でも、遅くなるかも」
「ん? どう云うこと?」
「ほら、様子がおかしいから」
「様子? 誰の?」
「うちの狩りの班長」
「ああ」
前村長の孫のことを云っている。
「あいつ、いつもおかしいわよ」
「そう?」
「怒ってばっかり!」
琴葉は息を吐く。
「気分屋なんでしょ」
「さあ?」
「まあ、いいわ」
琴葉が云う。
「無事に帰ってきてよね」
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