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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」28

2018年12月07日 | T.B.2019年


 雨が降り続いている。

 琴葉は外を見て、窓を閉める。
 出来上がった料理を運ぶ。

「ほら、食べなさいよ!」

 琴葉は、音を立てて、皿を置く。
 彼は首を傾げる。

「誰か来る?」
「は?」
「料理がたくさん……」
「うちは割と裕福なの!」
「どう云う意味?」
「いいから!」
「いいの?」
「判ったわよ、料理ぐらいちゃんとやるわよ!」
「いつもやっていると思うよ」
「やるのよ!」
「誰と話してるの?」

「いいから、肉よ、肉!」

「うーん」

 彼の返事は、相変わらず、歯切れが悪い。

「肉は、」
「好き嫌いしてるんじゃないわよ!」
「代わりに食べて」
「黙って食べなさい!」

 仕方なく、彼は席に着く。

 琴葉も坐る。
 手を合わせ、祈る。

 彼はその様子を見る。

「食べるわよ!」

 琴葉は料理をつまむ。
 彼は、料理を眺める。

 手を出そうとしない。

「ああ、もう!」

 琴葉は、野菜がのった皿を彼の前に出す。

「芋とかなら食べるでしょう」
「焼いたの?」
「蒸かすって云うの」
「落ち葉を集めて、」
「それは外でやる焼き芋でしょう」
 琴葉は笑う。
「おいしいよね。やったことある?」
「人がやっているのを見てた」
「ふーん」
「君もやるの?」
「やってもいいわよ」
 琴葉は彼の皿を持つ。
「晴れた日にね。落ち葉は集めてよ」
「いいよ」

 琴葉は、芋と豆の料理を彼の皿に取る。

 これなら、彼も食べる。

「あーあ」
 琴葉は息を吐く。
「あんたの親、おいしいものを食べさせてくれなかったのね」
「そんなことはないよ」
 彼は首を傾げる。
「……いや、そうなのかな?」
「肉なんか、出してもらえなかったんでしょう」
「食べ物には気を付けろって」
「何でよ」
「毒が入っているかもしれないから」
「どう云う状況!」

 琴葉は目を細める。

「人生損してるわね」
「そう?」
「そうよ!」

 琴葉は肉を食べる。

「毒なんか入っているわけないでしょ」
「あるよ」
「えぇえ」
「よくあった」
「それ食べたの?」
「食べたよ」
「お腹壊すし!」
「そんなもんじゃない」
「どう云う状況!」

 琴葉は、首を振る。

「とにかく、うちの料理は全部食べなさいよ」
「うーん」
「返事は?」
「……判った」

 彼が云う。

「今度、狩りに行くけど」
「狩り?」
「そう」
「いつ?」
「今度」
「ふーん」
「もしかしたら、……」
「何?」

 琴葉は食べながら云う。

「何か獲ってきてよ」
「まあ、出来れば」
「出来るでしょ」
「でも、遅くなるかも」
「ん? どう云うこと?」
「ほら、様子がおかしいから」
「様子? 誰の?」
「うちの狩りの班長」
「ああ」

 前村長の孫のことを云っている。

「あいつ、いつもおかしいわよ」
「そう?」
「怒ってばっかり!」

 琴葉は息を吐く。

「気分屋なんでしょ」
「さあ?」
「まあ、いいわ」

 琴葉が云う。

「無事に帰ってきてよね」



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