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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「律葉と秋葉と潤と響」15

2018年12月18日 | T.B.2024年

「はい、休憩~」

セナの声に
律葉は安堵のため息を吐く。

「十五分程休んでおけよ」
「セナさん、どっか行くの?」

あれ?と問いかける響に
セナは答える。

「俺は自分の腕ならしに」

すぐ戻るから、と
更に奥へと向かっていく。

響と律葉のペースに合わせていては
彼はいつも通りに狩りが出来ないと言う事。

「はー、緊張した」

律葉は響にお茶を差し出す。

「響は慣れたものじゃないの?」

なんたって、
彼から狩りを教わったのだから。

「慣れないよ。
 いつまでたっても
 セナさん凄いな~ってばっかり」
「確かにね、あの腕なら」
「本当に凄いんだ。
 逸れたと思った矢も
 必ず命中させるんだ」

矢を放つ時の
ひねり方とかあるのだろうけど、と
響は話す。

「まるで、魔法みたいっていうか」
「………へえ」

それはそれは、と律葉は答える。

「魔法、使えたら良いわよね。
 私達西一族も」
「そうだね。
 まぁそれはそれ、これはこれだけど」

水辺を囲む八つの一族。
その中で唯一魔法を使わない西一族。

「私達の自慢は狩りの腕なのだから、
 それを磨くしかないわ」
「律葉は真面目だねぇ」

む、と響の言葉に少し引っかかるが、
潤との事もある。
いちいち気にしないようにしよう、と
律葉は言葉を飲み込む。

「それにしても、
 響って英才教育よね」

基本的には狩りは親から、兄弟から習う物だ。
わざわざ先生を付けるというのは
あまり見られない。

さすが村長の息子と言った所か。

「ウチは、父さんが忙しくて」
「………村長だから、仕方無いわよ」
「本当は兄さんから習いたかったのだけど
 流派が違うから
 きちんとした人に習った方が良いってさ」

律葉は片親だが
忙しいながらも狩りは父親から習った。

響は確かに恵まれている。
全ての事を専門的に指導され、
本人にもそれを活かせるだけの能力がある。

性格も穏やかで、
自分の立場を鼻にかける事も無い。

きっと

そういう風に育てられた。
村長の息子として恥ずかしくないように。

「大変、よね」

自分ならば息苦しくて
投げ出してしまいそうだ、と律葉は思う。

英才教育だなんだと
言ってしまった事を訂正したい、と
バツが悪くなる。

「うーん。
 多分、律葉が思っている程
 真面目にしている訳でも無いんだけど」
「そうかなぁ」
「手抜きも多いし」
「……当たり前よ」
「村長の息子で得している部分もある」
「それなら良いけど」
「今、結構楽しいよ」
「そうなの?」

「うん。
 これから、やりたい事も沢山あるし、
 考えるとワクワクする」

「??」

「よし、それじゃあ。
 続き始めるぞ」

そこでセナが戻ってきたので
話はそれでおしまい。

「え、セナさん。
 あの時間で1匹仕留めたの!?」

響がセナに駆け寄る。
律葉もさてと、と立ち上がり後を追う。


本人が苦に思っていないならそれで良い。

けれど、

こんな立場投げ出したいと
言ってくれた方が良かった。

そう言って欲しかったと
律葉は思う。


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