TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「律葉と秋葉と潤と響」13

2018年12月04日 | T.B.2024年

狩りの予定も、学術教室も無い。
一日予定が空いている。

特に出掛ける用事もない。

少し遅い時間に
律葉は起き出す。

「………うーん」

思いっきり伸びをしてベッドから降りる。

父親は仕事に出掛けていて不在。

今日は1人ゆっくりしよう、と
時間をかけてお茶を入れて、
手間をかけて食事を作り
昼食を兼ねた朝食を取る。

1人なので
好きな物ばかり、と思ったけれど
変に凝りだして彩りの良いランチプレートを作る。
どちらかと言うと栄養が取れる感じ。

「野菜のバランス完璧だわ」

食後の少しぼんやりして
食器を洗うついでに
台所の片付けを少々。

もう一度お茶を入れ直し、
カップを持ったまま自分の部屋に戻る。

昼からお菓子でも作ろうかな、と
棚の本を引っ張り出して
いくつか広げながら、
簡単に出来そうな物を探す。

「ウチにある食材だと……ん?」

と、窓からの日差しが差し込んでいることに気がつく。

「いけない。
 洗濯物忘れていた」

慌てて、昨夜干していた洗濯物を
室内から移す。

「うーん、
 今日は暖かそうだから
 きっと乾く、よね」

「………に……は」
「あれ?」
「こんにちは~」

誰かが尋ねて来ているので
そのまま裏から玄関の方に回る。

「あ、沢子さん!!」
「律葉、外に居たの?」
「ちょっとね」
「遊びに来たわよ~」

ほら、とカゴを下げてくる。

「ふふふ、沢子さんのパン大好き」

どうぞ、と家に招き入れる。
叔母の沢子は
時々こうやってパンを持って尋ねて来てくれる。

「律葉、お昼はもう食べた?
 焼きたてだから今が美味しいのよ」

お昼は朝食を兼ねて済ませたつもりだった。

けれど。

本当に焼いてすぐ持ってきてくれたのだろう。
香りにつられて律葉は頷く。

「お昼は今からです」

沢子が作ったスープと共に
2人でパンをつまむ。

「こんなに沢山貰っちゃって」
「いいの!!
 お義兄さん夜勤もあるでしょう?
 持っていって食べたらよいのよ」

家族の話と、
狩りの話しと、
たわいもないおしゃべりをして、
それじゃあね~、と沢子は帰って行く。

お腹がいっぱいになったので
お菓子作りは
また、別の休日にしよう、と
広げていた本を棚に戻す。

今の時間を確認して、
戸締まりをして外に出る。

ちょうど、
村の端にある家からは正反対。
目指すそこまでゆっくりと歩いて行く。

大通りを通らずに、
湖沿いの道を歩いてみたり、
荷物になるから買わないと分かっていても
立ち寄ってしまうお店。

寄り道しながら
時間をかけてそこに辿り着く。

奥から三列目、
右から十五番目。

もう何度も来ているから
数えなくても
いつもの感覚でそこにまっすぐ進む。

「来たよ、お母さん」

並ぶ石碑の一つ。
名前と、日付が刻まれただけの石。

律葉は生まれて間もない頃だったので
特に思い出も無い、から、
あまり寂しいとも思わない。
もちろん、顔も知らない。

けれど、休日には
ここに来るのが日課。

「顔はお母さん似らしいけど」

そして、自分の髪を触る。
肩の所で跳ねてしまう癖も
母親ゆずりらしい。

「もう少し伸ばしたら
 ちゃんとまとめられるかしら?」

帰って夕飯の準備もある。
陽が傾く前に帰らなくては。
さて、と立ち上がる。

「今日もお父さんは遅いって言ってたな」

それじゃあ、夕飯も
自分の好きな物をつくろうかな
そう呟きながら

律葉は墓地を後にする。


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