TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」29

2018年12月14日 | T.B.2019年

 琴葉は家のことを済ませる。

 機嫌よく、歌を口ずさむ。
 彼はいない。

 部屋の隅の棚を拭こうと、布を持つ。
 そこには、西一族の村では見慣れないものが並ぶ。
 外で働く父親からのおみやげ。

 谷一族の工芸品。
 南一族の工芸品。
 海一族の工芸品。

「ん?」

 琴葉は、一番手前にあるものを手に取る。

「何これ?」

 丸い、輪っか。
 こんなもの、あっただろうか。

「腕にはめるのかしら?」

 その縁には、模様が彫られている。
 何か文字も彫ってあるが、読めない。

 旧ぼけてはいるが、高価そうなもの。

「…………?」

 琴葉は考える。

 いや、これははじめて見るものだ。
 しかも、西一族のものではない。
 いつの間にか、父親が持ってきたのだろうか?

 でも、彼がここに住むようになってから、琴葉は父親に会っていない。

「変なの」

 琴葉は元に戻す。

 彼が帰ってきたら、一応訊いてみよう。

 琴葉は棚を拭き上げると、外を見る。

「お、雨降ってない!」

 琴葉は再度歌う。

 外へと出る。
 曇り空。

 足を引きずりながら、歩く。

 小さな市場で、芋を仕入れる。

 長雨で、食糧も育ちが悪い。
 細い芋だが、琴葉はそれを持つ。

 市場の者が何かを云う。

 どうせ
 狩りに行かず、ふらふらしている自分への嫌みだ。

 琴葉は聞かない。

 病院へと向かう。

「あら、何それ」

「芋」

「芋?」

 母親が首を傾げる。

「ここに置いておいて」
「どうするの?」
「明日、芋を焼こうと思って」
「あら、いいわね」
「いいでしょ」
「家に運ぼうか?」
「大丈夫」

 母親が訊く。

「お肉はあるの?」
「あるよ」

 琴葉は云う。

「でも、肉食べるの私だけだし」
「そうね」
「だから、芋を買ってきたのよ」
「へえ」

 母親は窓を見る。

 雨は降っていない。

「天気、保つかしら」
「平気よ」

 じゃあ、と、琴葉は手を上げる。

「明日、取りに来るわ」

 けれども、

 そのあと

 雨が降り出す。



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