TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」22

2017年12月22日 | T.B.2019年

 涼は、山を登る。

 誠治はいない。
 ただひとりで。山を登る。

 涼は耳を澄ます。

 見えない目の代わりに。

 風の音。
 水の音。

 そして

 何かの話し声。

 ――餌はどこだ。

 ――天気は

 ――大丈夫。雨は降らない。

 涼は立ち止まる。
 その場に身をひそめる。

 ――向こうに怪我をした鳥がいる。

 ――喰えるか。

 ――喰える。

 涼はあたりを伺う。
 羽音。

 ――あいつは、山一族の手先だ。

 ――喰っても問題ないな。

 ――問題ない。

 ――いや、待て。

 ――…………。

 ――人間が、いる。

 涼は動く。
 草をかき分け、羽音の元へ。

 低木が揺れる。

 そこに、何かが引っかかっている。
 羽を広げ、足掻いている。
 傷付いた鳥。

 涼は近付く。

 その気配に気付き、鳥は威嚇するように、鳴く。

 涼は鳥を見る。
 首を傾げる。

 羽に人工的な色。

 つまり、どの一族かが飼い慣らしていると云うこと。
 このあたりならば

「山一族の鳥、か」

 涼は、鳥に絡まる枝を捕る。
 尚も、鳥は暴れようとする。

「大丈夫だ」

 折れた羽の手当をする。

「直に飛べるようになる。村の近くまで送ってやる」

 涼は云う。

「……山一族の村へ」

 ――西、一族

 ――西一族……。

 ――鳥を、助けた。

 涼の目の前に、もはや、あの鳥はいない。

 涼は歩き出す。

 さらに、山の奥へ。

 その後ろ姿を、

 多くの生きものが、見る。



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