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「成院と戒院と」7

2017年12月05日 | T.B.1997年

「ただのしびれ薬だったから
 後遺症は残らないよ」

不幸中の幸いかな、と
東一族の医師は言う。

「今は目を覚まして
 親御さんと一緒だよ」

そこまで聴いて
成院と戒院は胸をなで下ろす。

東一族の病院。病室の廊下。

砂漠からの帰りも転送術を使ったので
戒院は体力や魔力を使い切って
げっそりしている。

今日はもう、門番は別の者に
代わって貰った。

それに、東一族の村で
他の一族が巻き込まれる形で起こった事件なので
後から色々と面倒な事も多いだろう。

だが、
とりあえず南一族の子が無事でよかった。

「さて、俺は報告に行ってくる」

事が事なので
大将や、宗主にも
事の顛末を伝えなくてはいけない。

成院は立ち上がる。

「あのぅ」

声がして振り向くと、
病室のドアから
母親が顔を覗かせている。

「ありがとうございました。
この子もお礼を言いたいと」

母親の後ろから
女の子が顔を覗かせる。

「もう大丈夫なのか?」

戒院の問いかけに
女の子が笑顔で頷く。

「もう平気。
 お兄ちゃん達かっこよかった」
「そう?嬉しいな~」

「俺達が早く助けられなかったから
ごめんな」

軽い調子で答える戒院とは裏腹に
成院は真剣な顔をして
その子に謝る。

ぶんぶん、と
女の子は顔を横に振る。

「なんであやまるの?」
「怖かったろう?」
「でもたすけてくれたから
 ありがとうなの!!」

「そうそう。
 成院はそこの所がいけない。
 笑ってやればいいの」

戒院はやれやれ、と息を吐く。

「あぁ、……そうか」

成院はその子の頭を撫でてやる。
はっと、気付いたように
女の子は自分の髪を見る。

「砂の人が」

ぽつり、と呟く。

「髪が長いから間違えたって
 言ってた」
「あぁ」
「紛らわしいって、怒ってた」

それで、頬の入れ墨が
よく見えなかったのだろう。

「綺麗な髪なのに、
砂一族も失礼な奴らだ」

「きれい?」

「気にすることはない。
長い髪が好きなら
そのまま伸ばしたら良いよ」
「じゃあ、伸ばす!!」

うわぁ、と
戒院が若干引いている。

「成院が俺みたいな事言っている」

戒院の自分の認識どうなっているのか。
そんな戒院の事はさっぱり無視して
成院は問いかける。

「東一族の村は怖かったか?」
「ううん、
 また来る、お兄ちゃん達に会いに」

おお、大歓迎だぜ、と
戒院がその子と指切りをする。

次は成院の所にきて
ほら、と小指を出す。

「お兄ちゃん達も
 私の村に遊びに来てね、
 今日のお礼をするんだから」

「あぁ、そうだな、絶対に行くよ」

T.B.1997
成院と戒院と南一族の女の子のある日の出来事