TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」19

2017年12月01日 | T.B.2019年

 病院に入ると、決まった診察室に向かう。

 扉を叩き、中へと入る。

 中には、涼の担当医がいる。
 西一族の内部諜報員でもある、医者。

「来たか」
 担当医は、涼を見る。
「診察と面会、か」

 涼は立ったまま、手を合わせる。

「おい。やめろ」
 云う。
「その礼はしないと教えただろう」

 とにかく坐れと、担当医は手を動かす。
 診療簿を取り出す。

「まあ、嫁が見つかってよかったな」
 担当医が云う。
「村長も云っていただろうが、お前、どうやって西を抜け出た?」
「抜け出た?」
「とぼけるな」
 担当医は、机を叩く。
「勝手なことをするんじゃない」
 涼は首を振る。
「何もしていない」
「はっ」

 担当医は鼻で笑う。

「村長がお前のことをどう思っているかは知らんが、俺は容赦しないからな」

 涼は、担当医を見る。

「おい」

 担当医は苛立つ。

「お前、俺に負けるわけがないと思っただろう!」
「別に……」
「いつでも殺してやる」

 涼は目をそらす。
 頷く。

「本当に、お前は頑固だ。……まったく」
 云う。
「誰から譲り受けた血だ」

 涼は何も云わない。

「お前の父親、か?」

 その言葉に、涼は目を細める。

「何だ。図星か?」
「…………」
「それとも、父親の話をしたくない、のか」

 担当医は涼の様子を見る。

「お前の父親は誰なんだ?」
「…………」
「名のある者か?」

 もしくは

「かなり、地位のある者なのか」

 涼は答えない。

「今、どうしているのか。気になるなら調べてやる」
「……必要ない」
「ふぅん」
 担当医は首を傾げる。
「俺は知りたいんだがな」
「…………」
「それと、」
 担当医は続ける。
「どうも、村長の話からするに、お前の母親は死んだらしいな」
「…………」
「なぜ死んだ」
「……判らない」
「そんなはずはない」
 担当医が云う。
「お前、看取ったんだろう」

 涼は、胸を押さえる。

「調べればすぐ判る」

 涼は首を振る。

「もしや、父親が、」

「やめなさい!」

 扉を叩く音。

 涼は目を見開く。
 額に、汗が流れる。

 そこに、別の医者。

「やめなさいと云っているの!」
「これは高子(たかこ)先生」
「個人的なことは訊かなくていいでしょう」
「彼の父親に、結婚の報告をした方がいいと思って」
「余計なお世話よ」

 医者は、涼の担当医に診療簿を渡す。

「これからの診療。さあ、行って」

「…………」

「早く」

「はいはい」



NEXT