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「琴葉と紅葉」22

2017年05月19日 | T.B.2019年

「私も、あんたの親に会う日が来るのかしら」
「それはないよ」
「だって、いるんでしょ。……あんたの親」
「いるよ」
「ひょっとして、」

 琴葉は云う。

「私みたいに、親は村の外に?」
「判らない」
「知りたくもないってこと?」
「そう」
「そんなに非道い親だったの?」
「その話なら、以前、紅葉に、」

 琴葉は鼻で笑う。

「どうせ、嘘話でもしたんでしょ!」

 彼は少し考える。

「あながち嘘でもない、けれど」
「どうだか!」

「でも、俺に母さんはいない」
「それって、」

 琴葉は彼を見る。

「……哀しかった?」
「何が?」

「……ごめん」

「哀しかったよ」

 彼が云う。

「母さんが死んだとき」

「…………」

「死んだの?」
「そう」
「何で?」
「身体が弱かったんだ」

「…………」

「俺が生まれてしまったからかな」
「そんなわけない!」

 云って、琴葉は口を手で押さえる。
 声が大きすぎた、と。

「いや、うん。そんなわけないでしょ」

 彼は琴葉を見る。
 けれども、視線は合わない。

「あんたの話、どこまで本当か判らないわ」
「よく云われる」
「そう云うとこ、嫌い」
「嫌いでいいよ」

 琴葉は息を吐く。

「西に帰るわ」

 彼が頷く。

「ところで、君も気付いているとは思うけれど」

 彼が云う。

「君は西一族で、村の外に出ることはないと思われている」
「…………」

 琴葉は息を吐く。

「足も悪いし、……そうよね」
「うん。それだけじゃないんだけど」
「……どう云うこと?」
「とにかく、君は今回、西一族の村から出ていない」
「…………?」
「そう云うこと」
「……うん?」

 彼が云う。

「君は、お父さんのところへ行こうと、西を出ようとした」
「…………?」
「けれども、村を出る前に転んで怪我をし、そのまま動けなかった」
「……はい?」
「覚えた?」
「え、何? 覚え、る、の?」
「君は、お父さんのところへ行こうと、」
「判った判った! 覚えたわよ!」

 繰り返そうとした彼の言葉を、琴葉はさえぎる。

「何か訊かれたら、そう云えばいいのね!」

 彼が頷く。

「村を出たことが知れたら、みんなが心配するだろう」
「みんなって、誰よ!」
「君のお母さんとか」
「するわけないでしょう!」

 琴葉は投げやりに云う。

「帰るわよ!」

「うん」

「早く西に連れて帰ってよ!」



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