「私も、あんたの親に会う日が来るのかしら」
「それはないよ」
「だって、いるんでしょ。……あんたの親」
「いるよ」
「ひょっとして、」
琴葉は云う。
「私みたいに、親は村の外に?」
「判らない」
「知りたくもないってこと?」
「そう」
「そんなに非道い親だったの?」
「その話なら、以前、紅葉に、」
琴葉は鼻で笑う。
「どうせ、嘘話でもしたんでしょ!」
彼は少し考える。
「あながち嘘でもない、けれど」
「どうだか!」
「でも、俺に母さんはいない」
「それって、」
琴葉は彼を見る。
「……哀しかった?」
「何が?」
「……ごめん」
「哀しかったよ」
彼が云う。
「母さんが死んだとき」
「…………」
「死んだの?」
「そう」
「何で?」
「身体が弱かったんだ」
「…………」
「俺が生まれてしまったからかな」
「そんなわけない!」
云って、琴葉は口を手で押さえる。
声が大きすぎた、と。
「いや、うん。そんなわけないでしょ」
彼は琴葉を見る。
けれども、視線は合わない。
「あんたの話、どこまで本当か判らないわ」
「よく云われる」
「そう云うとこ、嫌い」
「嫌いでいいよ」
琴葉は息を吐く。
「西に帰るわ」
彼が頷く。
「ところで、君も気付いているとは思うけれど」
彼が云う。
「君は西一族で、村の外に出ることはないと思われている」
「…………」
琴葉は息を吐く。
「足も悪いし、……そうよね」
「うん。それだけじゃないんだけど」
「……どう云うこと?」
「とにかく、君は今回、西一族の村から出ていない」
「…………?」
「そう云うこと」
「……うん?」
彼が云う。
「君は、お父さんのところへ行こうと、西を出ようとした」
「…………?」
「けれども、村を出る前に転んで怪我をし、そのまま動けなかった」
「……はい?」
「覚えた?」
「え、何? 覚え、る、の?」
「君は、お父さんのところへ行こうと、」
「判った判った! 覚えたわよ!」
繰り返そうとした彼の言葉を、琴葉はさえぎる。
「何か訊かれたら、そう云えばいいのね!」
彼が頷く。
「村を出たことが知れたら、みんなが心配するだろう」
「みんなって、誰よ!」
「君のお母さんとか」
「するわけないでしょう!」
琴葉は投げやりに云う。
「帰るわよ!」
「うん」
「早く西に連れて帰ってよ!」
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