琴葉は、男たちを見る。
男たちは倒れている。
けれども、息は、ある。
「すごいね、君は」
彼は、琴葉をのぞき込む。
「何、すごいって?」
「危ない状況だったのに、男たちの心配をするんだね」
「違うわよ!」
琴葉は、自身の手を握りしめる。
「だって、あんたが!」
「俺が?」
「人を殺したのかと」
彼は首を傾げる。
「捕まっちゃうじゃない!」
「俺が?」
彼が笑う。
「おもしろいな、君は!」
「笑いごとじゃないわよ!」
琴葉は怒る。
「あんた、西に帰れなくなるのよ」
「うんうん。そうだね」
「そしたら、私は、」
「うん?」
「私は、」
「…………?」
「…………」
「ところで」
彼が訊く。
「北一族の村に何をしに?」
「…………」
琴葉は答えない。
下を向き、口を閉ざす。
「まあ、いいや」
彼が云う。
「帰ろうか」
彼が手を差し出す。
「……いなかった」
「え?」
「いなかったのよ」
「誰が?」
「……父さん」
「君の?」
琴葉は頷く。
「北に、お父さんを探しに来たの?」
「…………」
「泣いてる?」
「別に」
「哀しいの?」
「ここに、いると、……思ってたから」
「そうか」
彼が云う。
「連れて行ってあげようか」
「……何を、」
「君のお父さんのところに」
「……どこにいるか知らないくせに」
「じゃあ、言葉を換える」
「換えるって?」
「一緒に、お父さんを探してあげる」
「…………」
「…………」
「いい。やめておく」
「そう?」
「砂に売られちゃたまらないし」
彼は、笑う。
琴葉が云う。
「いいのよ。たまには家に帰ってくるし」
「お父さんが?」
「そう」
「会ったことないね」
「だって、本当にたまに、だもの」
琴葉は首を傾げる。
「会ったこと、なかったけ?」
「うん」
「会うの?」
「会った方がいいんじゃない?」
「え?」
「いずれ、会った方が」
琴葉は彼を見る。
彼も、首を傾げている。
「……ああ。」
琴葉は、彼が云いたいことを理解する。
「そうか……」
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