TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」21

2017年05月12日 | T.B.2019年

 琴葉は、男たちを見る。

 男たちは倒れている。
 けれども、息は、ある。

「すごいね、君は」

 彼は、琴葉をのぞき込む。

「何、すごいって?」

「危ない状況だったのに、男たちの心配をするんだね」

「違うわよ!」

 琴葉は、自身の手を握りしめる。

「だって、あんたが!」
「俺が?」
「人を殺したのかと」

 彼は首を傾げる。

「捕まっちゃうじゃない!」
「俺が?」

 彼が笑う。

「おもしろいな、君は!」
「笑いごとじゃないわよ!」

 琴葉は怒る。

「あんた、西に帰れなくなるのよ」
「うんうん。そうだね」
「そしたら、私は、」
「うん?」
「私は、」
「…………?」
「…………」

「ところで」

 彼が訊く。

「北一族の村に何をしに?」

「…………」

 琴葉は答えない。
 下を向き、口を閉ざす。

「まあ、いいや」

 彼が云う。

「帰ろうか」

 彼が手を差し出す。

「……いなかった」
「え?」
「いなかったのよ」
「誰が?」
「……父さん」
「君の?」

 琴葉は頷く。

「北に、お父さんを探しに来たの?」
「…………」
「泣いてる?」
「別に」

「哀しいの?」

「ここに、いると、……思ってたから」

「そうか」

 彼が云う。

「連れて行ってあげようか」
「……何を、」
「君のお父さんのところに」
「……どこにいるか知らないくせに」

「じゃあ、言葉を換える」
「換えるって?」
「一緒に、お父さんを探してあげる」

「…………」
「…………」

「いい。やめておく」
「そう?」
「砂に売られちゃたまらないし」

 彼は、笑う。

 琴葉が云う。

「いいのよ。たまには家に帰ってくるし」
「お父さんが?」
「そう」
「会ったことないね」
「だって、本当にたまに、だもの」

 琴葉は首を傾げる。

「会ったこと、なかったけ?」
「うん」
「会うの?」
「会った方がいいんじゃない?」
「え?」
「いずれ、会った方が」

 琴葉は彼を見る。
 彼も、首を傾げている。

「……ああ。」

 琴葉は、彼が云いたいことを理解する。

「そうか……」



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