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「涼と誠治」17

2017年05月26日 | T.B.2019年

 しばらくして。

 彼の住む家に、村長がやって来る。

「謹慎は終わりだ」
「…………」
「この家の娘が見つかった」

「そうか」

「近くの山の麓で、倒れていたらしい」
「…………」
「あの足でよく歩き回るもんだ」

 村長は、生まれつきの足の悪さのことを云っている。

 家の中を見回し、村長は涼の向かいに坐る。

「あの娘が北に向かったとか、余計な情報が出た」

 いや、

「それも事実かもしれないが」

 村長は、涼を見る。
 けれども、視線は合わない。

「あの娘の話だと、父親のところへ行こうと村を出ようとした」
 しかし、
「西を出る前に転んで怪我をし、そのまま何日もあの場所にいたと」

「へえ」

「そう云う、筋書きなんだな」

「さあ?」

「本当のことを話せ」
「何を?」
「お前、北に行ったのか」

 涼は答えない。

「答えろ」

 村長が云う。

「お前が北に行って、あの娘を連れてきたんだろう」
 涼は首を振る。
「俺はずっと、ここにいた」
 云う。
「この家には、見張りがいたんじゃないのか」

 村長は目を細める。

「覚えておけ。あの娘は村の外へ出ることは出来ない」
 そして、
「お前も、な」

 涼が云う。

「外に行くのは、あの子の自由だ」
「あの娘は自由ではない」
「なぜ」
「何度も云わせるな。あの娘は人質だからだ」
「本人はそう思っていないみたいだけど」
「人質であることを伝えていない。両親がそう望んだ」

 村長が云う。

「足が悪くて、そもそも、ひとりでは遠くに行けないからな」

 けれども、

「これが続くようなら、本人に人質の自覚を持ってもらうまでだ」

 涼が云う。

「父親に会いたいと思うのは、本人の自由だ」
「ばかなやつだ」

 村長が云う。

「淋しいと感じたんだ」
「淋しい?」
「そう思わなければ、外へ行くこともなくなる」

 涼は首を傾げる。
 村長は立ち上がる。

「難しいことじゃない」

 云う。

「例えば、子どもを持つ、とかな」
「…………」
「お前ぐらいの年は、どの一族でも子どもがいてもおかしくはない」

 涼は首を振る。

 結婚だけならまだしも、

「そんなこと、出来るわけない」
「一度、考えてみろ」

 村長は再度、涼を見る。

「ほら。外へ出ていいぞ」

 村長が云う。

「病院に見舞いに行ってやれ」



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