TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「燕と規子」4

2016年02月23日 | T.B.1962年

燕は辺りを散策する。
戦いの最中という事もあり
村中が妙に張り詰めている。

知った名の訃報を聞きながら
もしかしたら
それは自分だったかもしれない、と
ぼんやりとした頭で考える。

実感は薄い。

両親に顔でも見せようか、と
足を実家に向けるが
すぐに向き直り、湖沿いの道を歩く。

「燕!!帰っていたのね?」

声をかけて走ってくるのは
兄の恋人。

燕は頷き、
そして、問いかけを返す。

「見張り?」
「えぇ、
 私はこれくらいしか出来ないから」
「出来ることをやれば良いよ」
「そうね。
 ……ねぇ、燕」

燕は言う。

「兄さんも帰って来てる」

その言葉に兄の恋人は顔を綻ばせる。

「良かった、無事なのね」

良かった良かった、と
兄の恋人は言う。

「会いに行きなよ、きっと家だ」
「悪いわ。
 家族で過ごしているのに」
「そんなの気にしないよ。
 それに
 ここは俺が見ておくから」

「……でも」
「いいから」

「ありがとう、燕。
 今度お礼をするわ」

足早に踵を返した兄の恋人に
そうだ、と
燕は1つ問いかける。

「船が出払っているのはなぜ?」

船着き場には船の姿はない。

「今、交代の時間なの。
 日が暮れる頃には戻って来るわ」

なるほど、と頷いて
兄の恋人を見送ると
辺りを見渡せる場所に腰掛ける。

湖の先をじっと見つめる。

今回の戦場は2箇所。
燕たちが戦っていた
北一族の村付近の森と
もう一つは水上。

対岸に位置する西一族と東一族は
本当は船で行くのが一番近い。

お互いの牽制止まりだが
水上戦が本格的になれば
更に人手が必要となり

命を落とす者の数も増える。

「良かった、か」

兄の恋人の言葉を思い出す。

「戦いはまだ、終わっていないのに」

今回は無事だった。
でも、次は。

「……」

やがて、見張りの交代が来ても
燕は水辺に留まり続ける。

気がつくと陽は傾いていて
夕暮れ時にさしかかる。

「ご飯冷えたって怒るかな」

燕は妻の顔を思い浮かべる。

彼女はきっと帰りが遅いと分かっている。
まだ、下準備をしている所かもしれない。

本当に良くできた人。

「確かに、待つのはつらいな」

そう呟いている所に
数隻の船が帰ってくる。

遙か先の湖面に
姿を現した船が
少しずつこちらに近づいてきて
岸辺に着くまで
燕はじっと、待つ。

間違い無く、西一族の船。

船から降りる西一族の顔を
一人一人、と眺める。

「………っ」

す、と冷や汗が背を伝う。
鼓動の音がやけに大きく聞こえる。

全員降りた?
いや、そんなはずは。

少し遅れて、
最期の一人が船から降りる。

やっと、そこで
燕は安堵の息を吐く。

なるほど、
待つのはつらい。
出迎える瞬間は更に。

不安で心臓が潰れそうだ。

燕は立ち上がり
船に歩み寄る。


「お帰り、規子!!」


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