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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「燕と規子」2

2016年02月09日 | T.B.1962年

「あぁ、戻ってきた!!
 燕(つばめ)、ケガはないか??」

自分の陣営に戻った青年を
彼と同じ髪の色を持つ西一族が出迎える。

「作戦は成功だよ。
 あの砦は押さえたし、
 捕虜もこの通り」

燕と呼ばれた青年と
行動を共にしていた仲間が
東一族を捕らえている。

捕虜は敵に掴まってしまった
西一族との交換に使われる。

「全員投降させられたら良かったけど
 見張りと抵抗した人は
 難しかったな、残念」

燕の言葉の意味を噛みしめながら
出迎えた彼は肩を落とす。

「戦いだ、仕方ない」

どうしようもない事だ、と。

「命を奪うことなら慣れている」
「食べるために獣を狩るのとは違う。
 無理をするな」

「同じだよ、生きるためだ」

「同じじゃない。
 慣れてくれるな、頼むから」

そっか、と燕は頷く。

「俺は大丈夫だって、
 兄さんの班こそ、」

は?と捕らわれていた東一族が声を上げる。
様子を伺って二人の会話を聞いていたらしい。

「お前達、兄弟なのか?」

「……そうだが?」

「おかしいだろう。
 なぜ一人だけそんな眼を持っている
 腹違いなのかお前達」

「正真正銘同じ親から生まれている」

眉間にしわを寄せて答えた燕の兄に
おいおい、と
捕虜を見張っていた別の西一族が声をかける。

「落ち着け、希(のぞみ)
 挑発しているだけだ」

舌打ちをしてその場を離れる兄を
燕が追いかける。

「兄さん、少し落ち着きなよ」
「落ち着いている」

二人の髪色は
生粋の西一族しか持たない色だと言われ
重宝される銀色。

だけど、弟である燕は
なぜか黒い瞳で生まれた。
敵対する東一族特有の色であることから
村での扱いも良い物ではなかった。

「あいつら、
 少しはかばい立てぐらいしたらどうだ」
「え?
 うーん、さっきのやつ?」

東一族ではなく、
捕虜に付いていた西一族に怒っていることに
燕は驚く。

「お前のこと、
 今まで散々バカにしてきたくせに
 こんな争いになったら
 侵入に使える、と、利用してきて」

「そうかな」
「そうだ!!」

ここ最近、兄はピリピリしていると
燕は掛ける言葉を選ぶ。

いつもならば、
冷静に落ち着いて
状況判断の出来る人だ。

自分の事で怒ってくれることは今までもあったが
露骨に怒りを外に出すのは珍しい。

「いや、ここ最近、
 多かったかも」

こんな争いの前線で
いつも通りの自分で居られないのは
兄だけではない。

いつも通りの自分の方が
きっと、おかしいのだ。

「あれ?」

その西一族の陣営にある
自分の荷物が
まとまっていることに燕は首をひねる。

「今回は、俺達には
 帰村命令が出ている」

兄の言葉に、燕は声を上げる。

「俺達ケガもしてないし、
 特に大きな失敗もしていない、よね」
「休暇みたいな物だ。
 入れ替わりのやつらが午後には来る」
「それなら俺は前線に残るよ」
「命令だ、と言ったろう。
 どうせ争いが長引けばまたここに戻ってくる」

嫌だと言おうが関係なく、
という兄の言葉に
分かった、と燕は頷く。

「それに燕、
 お前、嫁を村に残して居るんだ」

「それは……そうだけど」

頭をかく燕に兄は笑う。

「顔を見せてやれ。
 きっと心配している」


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