TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「燕と規子」1

2016年02月02日 | T.B.1962年


「交代の時間だ」

声をかけられ、見張りの男は顔を上げる。
夜も更けてきて、
寝ずの番で気が張り詰めていた所だ。

「もうそんな時間か。
 ……見ない顔だな」

交代に来た青年は頷く。

「人手が足りない、と」

そうか、と
フードをかぶった青年の眼を見つめ
男はため息をつく。

ここは彼が暮らす東一族の村から離れた
北一族の村に近い森。
敵対する西一族との戦場になっている所だ。

大きな湖を囲む8つの一族。
その中でも湖を挟んで敵対する
西一族と東一族。

外見も、生活も何もかも正反対の
2つの一族には
昔から小さな諍いが絶えなかった。

何がきっかけなのかは分からない。
そんな火種が積み重なったせいで
争いは大きな物となってしまった。

「早く争いが終われば良いのに。
 このままでは資源も人も
 減っていくばかりだ」
「そうだな」

男の言葉に青年は相づちを打つ。

何か気が緩んだのか
男は言葉を続ける。

「俺はもう西一族が憎いのかどうかも分からない。
 ただ、倒さなきゃいけない、それだけだ」
「……無意味だよなぁ」

大丈夫だ、と
男は青年の肩を叩く。

「きっと帰れるさ。
 俺もこんな所でくたばるわけにはいかない」

「そうか、」

小さく呟く青年の言葉を
男は聞き逃さなかった。

それはそれは、ごめんなさい。

「え?」

と、男はぐらりと倒れる。

なぜ。
自分は地面に倒れているのか。

敵が、西一族の襲撃か。
一体どこから。

「何が、一体。
 気をつけろ」

青年はこの事態に驚きもせず
ただ、自分を見下ろしている。

おかしい。

この青年は何なのだ。

下から見上げる形になって
青年のフードの奥に隠れていた髪が
ちらりと覗く。

銀色の髪。

「え?え?
 西一族??」

男は混乱する。

彼は気を抜いていた訳では無い。
敵の侵入を想定して過ごしていた。

西一族が何事も無く東一族の砦に
侵入するというのはとても難しい。

なぜなら
西一族と東一族では
身体的特徴で大きな違いがあるから。

東一族は黒髪・黒色系の眼
西一族は白髪・白色系の眼。

髪の色は染めようがあるが
眼ばかりはそうはいかない。

だから、
男は瞳を特に注意して見ていた。
この目の前の青年だって
きちんと確認したはずだ。

「なぜ、お前は
 黒色の眼を」

青年はそこで初めて
小さく笑ってみせる。

「なんでだろうね?
 生まれつき、こうなんだ」

「混ざりもの、か?」

「さぁね?
 この眼、自分でもあんまり好きじゃないんだけど。
 初めてこの色で良かったと思ってるよ」

その笑顔はまた一瞬で消える。

「こんな戦い一刻も早く終わらせなきゃ。
 それは俺も同じだ。
 時間が、無いんだ」

冷たい眼で、青年は男を見下ろす。


「だから、争いが早く終わるため
 申し訳ないけど、さようなら」


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