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「辰樹と天樹」12

2016年02月12日 | T.B.2016年

「聞いたか、天樹!」

 辰樹は、天樹の元へとやって来る。

「砂漠寄りの畑に、散布されたって」
「声が大きいよ、辰樹」

 天樹は、弓矢と短刀を持つ。

「まだ、出回ってない話だ」
「……そうなのか。悪い」
「砂一族の毒、と云うだけで、不安が広がるから」

 砂一族は、毒を作ることを得意としている。

 その砂一族に、広い範囲ではないものの、毒を散布された。

 東一族の村の、木々は葉を散らしている。
 田畑の収穫も、今期はすでに終わっている。

 つまり、食糧自体に、毒を散布されたわけではない。

 が

 このままでは、次期に畑を使えない。

 対処が遅ければ遅いほど、毒は広がっていく。

「こちらも、気付くのが遅かったな」
 天樹が云う。
「二晩は経ってるらしい」
「そのときの、務めは誰だったんだろ?」
「誰が、とかはいいだろ、辰樹」

 辰樹が訊く。

「これから、どうするんだ、天樹?」
「その砂一族を探して、浄化方法を聞き出す」
「浄化方法?」
「毒を作ったのなら、浄化薬も作ったはずだ」
「へえ」
 辰樹が云う。
「じゃあ、砂に乗り込むのか?」
「まさか」
 天樹が云う。
「砂はおもしろがって、東の様子を見に来る」
「そこを」
「狙う」

 辰樹は、顔をしかめる。

「上手くいくかな?」
「向こうは、条件として、東の情報を求めるよ」
「情報?」
「主に、重役の情報」
「重役というと、」
「宗主様、大将、占術大師、大医師様、あたりかな」
「それ、教えるの?」
「教えるわけないだろ」
「なら、」
「その砂一族を捕らえるしかない」

「あー……」

 辰樹は手を合わせる。

「砂のあいつが出てきませんように!」
「あいつ?」
「あいつ!」
「……ああ。なるほど」

 天樹にも、思い当たる砂の者。

「ところで、」

 辰樹が云う。
「俺たち、ふたりだけ?」
 天樹が頷く。
「大々的に動けない。だから、俺たちだ」

 天樹は辰樹を見る。

「……辰樹」
「何だ?」

「親には、云って来たか?」
「親に、て。え?」

 辰樹は武器を手に取りながら、首を傾げる。

「何を?」
「これから務めに行く、て」
「あ、それ?」
 辰樹は頷く。
「務めの前は、いつも云ってくるけど」
「そうか」
「何で?」

 天樹は首を振る。

「何でもない」
「何だよー」

 少し考えて、辰樹が云う。

「天樹は、云ってこなかったのか?」

 天樹は答えない。
 辰樹は、はっとする。

「おい! 家の人に、行ってきます、て、云わないのか!」
「辰樹、声でかいから」
「いやいやいや!」

 辰樹は、思わず天樹を掴む。

「お前んち、どうなってるんだよ!」
「どうなってるって」
「だから、一緒に風呂に入りに行こうって!」
「その話は、もういいから!」



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