TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「西一族と巧」16

2020年03月20日 | T.B.1999年


「何!?」

「ねえ!!」

「落ち着け!」

 火が、消えている。

 暗闇。

 3人とも少し眠ってしまったようだ。

「音!」

「鳴き声!?」

「熊だ!」

 巧は、急いで火を起こす。

 手元が、おぼつかない。

「華、いるのか!」
「ここよ!」
「みんな動くな!」

 暗い山奥。
 徐々に、目が慣れてくる。

「何が起きた!?」
「たぶん、かなり接近された!」
「熊に!? 嘘でしょ!」

 やっとのことで、火が付く。
 巧は持ちやすい枝を探す。

 せめて、ふたり分。

「向!」
「すまん、巧!」

 巧と向は火を持つ。
 あたりを見る。

「いる?」
「……いる」

 3人は息をのむ。

 いる。

 近くに、獲物。

 熊。

「……どうしよう」

 眠ってしまったばかりに、心の準備が出来ていない。

「道具は?」
「ある」
「武器も?」
「もちろん」

 巧と向は、武器を持つ。

「狩られるなよ」

 向が云う。

「狩りをするつもりが、このざまか」
「まいた方がいい」

 巧が云う。

「不利な状況だ」
「何でだろうな」
「向」
「3人でいつもの狩りをするつもりだったがな」

「山を下りましょう」

 華が云う。

「怖い」

「大丈夫」

 巧は華を見る。

「山を下りよう」

 3人は、あたりを警戒しながら荷物をまとめる。

「さあ、急いで!」





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「西一族と巧」15

2020年03月13日 | T.B.1999年

 日が暮れる。

 火を囲み、3人は話をする。

 華は、今育てている花の話を。
 相変わらず、いくつか花を集め、育てているらしい。
 また、北一族の村に行って、園芸のものを買いたい、と。

「ほら、あのときの花、まだ元気なのよ」
「あのとき?」

 巧は首を傾げる。
 華も首を傾げる。

「えーっと、いつだった?」
「だから、巧はそれを訊いているんだろう」

 携帯食をほおばりながら、向が云う。

「巧が買ってくれた花なのよ」
「そんなことあった?」
「何年前だったかな?」

 華が云う。

「私がひとつ買って、もうひとつ巧が買ってくれたのよ」

 その言葉に、巧はぼんやりと思い出す。

「海一族産の?」
「それ!」
「海一族産ってどう云うことだ?」
「海辺に咲く花ってこと」
「それが何で、華ん家で咲いているんだよ?」
「育て方がいいから、かな!」
「すごいな、華は」
「俺からも云うよ、すごいな、華」
「とってつけたように、向!」

 華は巧を見る。

「紅色とか紫色の花が咲いてるよ」
「それは、よかった」

 巧は頷く。

「花で、お腹いっぱいにはならないだろう」
「お腹とかの問題じゃない!」

「いいから、お前らも食えよ」

 向は、小刀で携帯食である肉をそぐ。
 巧と華に配る。
 食べる。

「それ」

 巧は云う。

「北に行ったときに買った小刀?」
「ああ、これか」

 向は、小刀を見せる。

 丁寧に刃が研がれ、手入れされている。

「3人で行ったときに買ったやつだ」
 向が云う。
「持ちやすくてな、いいんだよ」
「ふーん。私でも使えそう」
「狩り用よりも、こうやって、ものを食べるとき用にしてるけど」

 握りやすいから、と、向は再度云う。

「もうひとつほしいな、これ」
「私もほしいな」
「俺も買おうかな」
「だよな、巧!」
「だから、私も!」
「おそろか、俺ら!!」

 3人は笑う。

「また、北一族の村に行きたいね」

 火を見つめながら、華が云う。

「てか、3人で北に行ったの、いつの話だ?」
「3年前だ」
「3年前!?」
「そんなに!?」
「そりゃあ……」

 向が云う。

「俺も背が伸びたわけだ!」
「成長期か!」

 よし、と、向が立ち上がる。

「近々、北一族の村に行くとしよう!」
「ねね、あのときお昼食べた店に行こうよ」
「いいね」
「楽しみ~」

 火を囲み、3人は話を続ける。

 あたりはすでに、日は落ちている。

 獲物が出るまで、もう少し。





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「西一族と巧」14

2020年03月06日 | T.B.1999年

「向!」
「はいよ!」

 巧は走る。

 足下は悪い。

 回り込むように、向が走る。

 ふたりの間には、獲物。
 道はない。
 草をかき分ける音。

 獲物は必死で逃げる。

 巧と向は、武器を握りしめる。

 獲物は早い。

 が、

 追い詰めている。

「行け、巧!」

 向が叫ぶ。
 その言葉と同時に、巧は、獲物に飛びかかる。

 獲物は鳴き声を上げる。

「早くとどめを!」

 獲物は巧を振り払う。

「待ってました!」

 華が現れる。
 突然のことに、獲物は、たじろぐ。

「油断するな!」
「判ってる!」

 獲物は弱っている。
 華はひるまない。

 巧と向も追いつく。

 華も武器を振り下ろす。

「どうだ!」
「やったか?」

 獲物は、

 倒れる。

 3人は、その様子を見る。
 動きが止まるのを、待つ。

「いけるか?」
「大丈夫そうだな」
「今日の獲物ぉ!」

 3人は、手を叩く。

「お疲れぃ!」
「よかった」
「いい獲物ね!」

 巧は、獲物を持ち帰る準備をする。

「いや~。俺たちの連携最高」

 そんな向に、華が首を傾げる。

「向は、何したの?」
「俺か?」
「何か、走っていただけだったっぽいですけど」
「俺は、獲物を追い詰めた」
「あ~、うーん」
「そして指示を出した!」

 向は胸を張る。

「俺は、班長だからな!」

「はいは~い」
「何だ、華! その適当な返しは!」
「妥当なる適当です」
「妥当なる!?」

 ふたりのやりとりに、巧は笑う。

 そして

 そろそろ行くか、と云うころ。

 華が云う。

「ほら、新月のときに出る、獲物の話」
「新月?」
「満月じゃなかったか?」
「白い熊の話よ」
「今日は何だ?」
「新月だ」

「ちょっと待ってみようよ」

 もうすぐ、日が暮れる。

「待つのか?」
「本当に?
「そう」





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「戒院と『成院』」4

2019年10月22日 | T.B.1999年

「容体はどうかな」

医師が戒院に尋ねる。
今は医師と患者だが
医師と医師見習いでもある。

「順調ですね。驚く程だ。
 ただ、だるさが抜けるのにかなり時間がかかる。
 この薬の副作用かと。
 体力の無い子供や高齢者には
 これがどう影響するか分からない」

「うんうん。
 若い君だから試せた。
 一か八かの薬だ」

じきにベッドから
立ち上がる事ができるだろう、と
医師は診断する。

それで、と。

「気分はどうだい」

「最悪だ、これ以上ないくらい」

具合ではない。
心持ちの話。

「俺にこれから
 どう生きていけと言うんだ」

「君は自死を選ばないだろうからね」

「当たり前だ。
 そうでなければ何のために成院は
 犠牲になった」

ふぅん、と医師は椅子に腰掛け
戒院に向き合う。

「一つ、提案を」

「なんでしょう?」

「これから君、
 成院として生きていくつもりは無いか」

「????え?」

「例えの話じゃない。
 戒院は死んだ事にして
 君は成院になりすまし、
 これから生きていく」

すっと、医師は鏡を指差す。
そこには医師とそして、戒院が映っている。

「都合の良い事に、
 君たちは一卵性の双子だ」

「はあ??
 俺に成院になれと??
 そんなの」

「もちろん、君たちは
 性格も得意な事も違う、
 慣れるまでには時間がかかるだろうが
 そこは、こう押し通すしかない」


「あいつは、弟が死んでから
 変わってしまった。
 弟をなぞるように生きている、と」


ぽかんとした後、
しばらく戒院は押し黙る。

「ははっ、傑作だな。
 代わりになったのはどちらだろう。
 俺はあいつになるために生き残ったのか」

でも、それならば
生きる意味はあるのかもしれない。

「なんだ、結局生き残ったのは
 成院でも戒院でもない、誰かじゃないか」

戒院は乾いた笑みを浮かべる。

「しばらく考えて、と言いたいが」

実の所、と
医師は言う。

「戒院、君は死ぬ予定だった」
「そうですけど?」
「病でではない。
 原因は病でだが、
 宗主に君の病が知れたからだ」

「光院がどうして死んだか
 君も知っているだろう」

「あぁ」

先に病に罹った宗主の息子。
戒院とは親戚だし、
歳も近いのでよく話していた。

宗主と大医師
彼らが決めた病の対策。
病が広がる前に終わらせる。
患者は苦しむ前にその特別な薬で。

「だから、もう
 君は死んだ事になっている。
 成院として生きていくしか無いんだ」

「……………」

「それ、成院は知っていましたか」
「いいや。
 知っていたら今のこの状況は
 変わっていただろうか」

ここに居るのが
戒院ではなく、成院だったかと。

「いや」

戒院は答える。

「同じだったと思います」

窓の外、病院の窓から
僅かに見える湖を戒院はじっと見つめる。

8つの一族の村が囲む、
大きな湖。

「そうか」

医師はそれだけ答え
病室を後にする。

数日後、戒院は
ある提案をする。

「君が医師見習い?」

「はい」

医師は首をひねる。

「医師を目指していたのは、戒院だっただろう」

えぇ、と戒院は頷く。
これから彼は成院として生きていく、
医師見習いを目指すのはズレが出てくる。

「俺は、やっぱり
 命を救う事がしたい。
 武術は成院の様には出来ないし、
 多分、これしかない」

助かった命の代わりに、と。

「君が悪いわけではないよ」

誰でもない、憎むなら病を、と。
医師は言う。

「それでも、ですよ」

医師は病室の窓を開ける。
そこから湖をながめながら言う。

「君がそう決めたのなら、
 成院もきっと、喜ぶだろう」
「どうだか」
「真面目だったからね、彼は」
「真面目すぎて、
 融通きかないし、
 かと言って変に突拍子もない事するし」
「全く正反対の兄弟だったね
 君たちは」

「うまくやりますよ。
 十何年近くで見てきた訳だし」

医師は窓を開けたまま病室を後にする。
もう、彼から感染を恐れる必要が無い。

「じきに起き上がれるようになるだろう。
 そうしたら、君は医師見習いだ」

医師はいう。

「とりあえずは、体調を元に戻すんだな、
 戒院…………いや」

おおっと、と
医師はこれからは違ったな、と
彼をこう呼ぶ。

「――― 成院」

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「戒院と『成院』」3

2019年10月15日 | T.B.1999年

息苦しさと共に目が覚め、
長く息を吐く。

辺りは暗く、
寝付いて、そう時間は経っていない事が分かる。
何度もこうやって目を覚ます。

「……………」

何もない天井を見つめて
先程まで見ていた夢を振り返る。

自分が病に侵されている、と
自覚した時の事。

恋人とは別れ、
家族とも離れ、

他の患者と同じ様にこのまま自分は
死んでいくのだろうなと
日々を過ごしていた。

それが、生き残ってしまった。

奇跡的に助かったのなら
喜びもできたが、
兄の犠牲と引き換えにして助かった。

「命は引き換えにするものじゃない」

普段から軽い性格だと言われる戒院だが、
それでも、医師を目指した1人だ。

「どちらも助かるならそれがいい。
 助からないなら、選ばなくてはいけないなら」

詳しい話は聞けていないが、
成院は薬を1つ持ち帰った。

西一族からという
発覚すればお咎めでは済まない
そんな代物だ。

そこで、成院の病が発覚する。

どこで感染したのかと言われれば
やはり、
家族である戒院からだろう。

薬は1人分。患者は2人。

「なぜ俺に使う事を選んだ」

君の方が症状が重かったからね。
そちらを優先しろと成院が。

そう、医師は教えてくれた。

もしかしたら、
また薬が手に入るかもしれない、
だから自分は、その時にと。

「そんな、訳はないだろう」

気休めだ。
奇跡でも起きない限り
不可能に近い事。

そして、戒院は助かり、成院は。

せめて、声を交わす事が
出来たのなら。

けれど全ては戒院が昏睡しているうちに
終わっていた。

この怒りをぶつける先が分からない。
バカな事をと言う相手はもう居ない。

そんなに仲の良い兄弟では
無かったじゃないか。

「こんな時ばかり
 兄貴ぶりやがって」

兄といっても、
弟といっても、
自分達は双子じゃないか。


 
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