天然居士のとっておきの話

実生活には役に立たないけど、知っていると人生が豊かになるような話を綴りたいと思います。

戦線文庫

2021-04-21 | Weblog
 先日、早坂隆さんの「日本の戦時下ジョーク集 太平洋戦争編」を読みました。
 この中に、「戦線文庫」の話が出ていて興味を持ちました。
 戦線文庫は、1938年(昭和13年)から1945年(昭和20年)にかけて、
 大日本帝国海軍が発行していた、兵士向けの慰問雑誌です。
 実際の編集業務は文藝春秋の子会社として設立された戦線文庫編纂所から、
 興亜日本社(後の日本出版社)が担当していたとの事です。
 現在確認されているところでは全77号ですが、
 全82号とする説もあるようです。

 内容は当時の総合雑誌同様に、
 人気女優らのグラビアや娯楽小説・ルポルタージュなどが主体で、
 漫才や落語、漫画、なぞなぞ、囲碁・将棋のページなど多岐にわたっていました。
 戦線文庫には2種類あり、兵士向けの戦地版と一般向けの銃後版とがあったようで、
 戦地版は、海軍の将兵一人ひとりに無償で配布されていました。
 銃後版は1部40銭だったとの事です。
 発行部数は1942年(昭和17年)頃では、200万部とされています。
 内容は当初はほぼ同一でしたが、戦況悪化による物資不足により、
 末期には銃後版はページ数が減らされ紙質も落とされたとの事ですが、
 戦地版は最終号まで200ページ台のページ数を維持していたとの事です。

 興亜日本社の後身である日本出版社が2012年に自主廃業したため、
 同社保存分については社長だった矢崎泰夫さんにより、
 横浜市立大学に寄贈され、現在は同大学が管理しています。
 ちなみに、矢崎泰夫さんは
 「話の特集」の編集長をしていたジャーナリストの矢崎泰久さんの弟です。
 全巻ではありませんが、横浜市立大学で目録を作成しています。
 詳しくは下記をご覧下さい。
 https://opac.yokohama-cu.ac.jp/03books/collection/sensenbunkocatalog.pdf
 
 この目録を見ると、創刊当時文藝春秋の社主をしていたのが菊池寛ですので、
 菊池寛も多く寄稿しています。
 その他、子母澤寛、吉屋信子、吉川英治、林芙美子、長谷川伸などが
 寄稿していますし、
 グラビアでは、
 田中絹代、原節子、高峰三枝子、轟夕起子、山田五十鈴などの名前があります。

 戦線文庫は、海軍が発行したものですが、
 陸軍においては、陣中倶楽部と言うタイトルの慰問雑誌が発行されていました。
 戦線文庫が将兵全員に配布されたのに対し、
 陣中倶楽部は各部隊単位に配布され、
 部隊内で回し読むことを想定していたため、発行部数は7万7千部程度との事です。
 陣中俱楽部は、発行していた講談社に合本があるようですが、
 国立国会図書館にも所蔵されていないため、幻の慰問雑誌と言われているそうです。


コメント
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