新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

むかしの絵は読み解くものだ

2015年06月07日 | 日記


 「ウズ・ルジアダス」の第8歌は、ヴァスコ・ダ・ガマの兄パウロ・ダ・ガマがインド南部に住む部族の高官に、ポルトガル本国から持参した旗を見せながら自国の歴史を説明するところから始まる。パウロの説明はポルトガルの礎を築いたバッコスやヴィリアートといった神話上の人物から初代国王の父へと移る。さらにやがては、自己を犠牲にしてポルトガル王の危機を救ったエガス・モニスらも登場する。いくつかの旗の絵にポルトガル史の概要が描かれている。
 旗に描かれた絵がもつ意味は、今日の絵とはかなり違うだろう、と私は思っている。文字を読み書きする人がそれほど多くなかった時代にあって、絵は他人に状況を説明するためのだいじな手段だったはずだ。「ウズ・ルジアダス」のなかでは、アフリカ沿岸に到達したときにも、好奇心旺盛な地元の王や民にむかってヴァスコ・ダ・ガマらが絵を見せながら話をする場面がある。絵は万国で通用する伝達の手段だった。ただ、それを的確に説明できる人材もまた不可欠だった。
 話がかわる。江戸末期から明治初めの状況をおさらいしようと思って岩波新書「幕末から維新へ」を読んでいる。幕府権力を弱体化させた一因に天明の大飢饉があげられ、「天明飢饉之図」の写真が載せられている。写真の下には状況の悲惨さが簡単に述べられているが、新書の4分の1ページしかない小さなモノクロ写真では描かれた内容がさっぱり分からない。ネットで検索するともっとはっきり鮮やかに写したものがあった。骨と皮ばかりになった男が血が滴るものを口にしている。女の腹の上にやせ衰えた子どもが乗っている。鳥が二羽、死体をついばんでいるようだ。井戸水をくむ桶に手を伸ばしている女がいる。その足下にも子ども。鎌、包丁、ひしゃくが散らばる。ほかにもさまざまなものが描かれている。歴史学者らにこれらをきちんと解いて説明してもらいたい。
 文字による資料はもちろん正確で重要だが、文字を読み書きしない人たちにも分かるように描かれた絵にも相当な歴史的価値があるのではないか。歴史資料としての絵を歴史に照らしてきちんと読み解いた解説書がほしいものだ。





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