作家の伝記「ジェフリー・アーチャー/小説よりも奇なり(Jeffrey Archer/Stranger than Fiction)」を読み始めた。450ページほどある大部なハードカバー本で、丸善で4200円で購入している。1995年刊になっている。長年わが書棚に眠っていた。
ジェフリー・アーチャーは政治家、小説家と紹介されるが、野心と欺瞞に満ちた人物だ。「チェルシー・テラスへの道(As the Crow Flies)」という当時のベストセラーを読み、そのプロットの巧みさに感心したおぼえがある。原題が示す意味は、カラスはひたすら目的地に向かってまっすぐに飛ぶ、そのように金持ちになり、町の名士になることをめざし、ひたすらに突き進むある人物の物語だ。無一文から身を起こす。場所はロンドンの貧民街ともいえるイーストエンド。毎日リヤカーに野菜を載せて路地に立つ。少しずつお金を貯め、ウエストエンドで大きなデパートを開店するまでに店を成長させる。その間の推移が、小説では読者を惹きつけてやまないプロットの巧みさで描かれているのだが、詳細を忘れてしまった。功成り名を遂げ、巨万の富を築き上げた主人公が人生の最後にしたことはなんだったか。なんと若いころ自分がしていた、リヤカーに野菜を載せて自分で売り歩くことだった。
この話のなかで一つだけ印象に残っていることがある。大きなデパートを開店させたあと、一つやり残したことがある、といってみずから軍隊への入隊を志願することだ。学校で教わったわけでもないだろうが、お国のために尽くすことをだいじな義務だと考えていたらしい。日本人にとって軍隊に行くとは死を覚悟することを意味するが、イギリス人にとってはそのイメージがまるで異なるようだ。王室の一員でも軍に入るのを見てもそれが察せられる。
閑話休題。英語で本を読むことは、日本語で読むよりはるかに多くの時間がかかる。だが、じっくり読めることにより、さまざまなことを合わせ考えることができる。辞書を引くことはいうまでもなく、地図を見る機会にもなる。この場合なら舞台がロンドンとその近郊だから、そのへんの地図をグーグルで開きながら、出てくる地名を探す。外国人の人物名はおぼえにくい。そのため人物関係を把握し、忘れないためにノートにメモしながらの読書になる。前に出てきた人物がどのような人物だったか、自筆メモを探して記憶を新たにするのも読書の楽しみだ。デパート名を見つけ、実在のものならどのようなデパートかを調べることも一興だ。歴史上の人物名も数多く登場する。どのような人物だったか知りたい。
これらのことを日本語で読みながらすることはおそらく不可能だろう。つい読み飛ばしてしまう。英語だから、自分にとって外国語だからこそ得られる読書の楽しみだ。さてこれからしばらくは、読書に付随するこれらの楽しみにどっぷり浸かるとしよう。