新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

魚が自転車を得た

2018年06月06日 | 日記

 英語の語法を学習するときに、鯨の公式と呼ばれるものに遭遇する。A whale is no more a fish than horse is.という文を使って「no more ---- than ---」の使い方を習得させようとするものだ。「鯨が魚でないのは、馬が魚でないのとおなじだ」の意味になる。
 この文を見て、またふたたび思い出した。グロリア・スタイネムのことを。Msという雑誌を創刊した女性解放運動の闘士で、この女性とこの雑誌のおかげでこんにち女性の敬称として使われるMsが定着したといって過言ではない。以前は結婚前の女性をMiss、結婚後の女性をMrsと分けて呼んでいたのだから、その功績は大きい。
 グロリア・スタイネムはかつて「女にとって男は必要でない。それは魚が自転車を必要としないのとおなじだ」という趣旨の発言をした。これを英語にすれば、さきの鯨の公式にぴたりとあてはまる。「A woman doesn’t need a man any more than a fish needs a bicycle」となるはず。ネットで調べてみたところ「A woman needs a man like a fish needs a bicycle」が出てきた(くわしくはhttps://www.phrases.org.uk/meanings/414150.htmlを参照)。「女は男を必要とするが、それは魚が自転車を必要とするのと同じ程度でしかない」という意味だろう。スタイネムのことばは否定文ではないし、「no more --- than ---」が使われていない。鯨の公式が使われた文ではなかったようだ。しかも上記のネット情報では、このことばはオーストラリアの女子学生が大学のトイレのドアとワインバーのトイレに書いた落書きだったこと、それが別の警句からの言い換えだったことなどが明かされている。
 その辺のことはともかくとして、「A woman needs a man like a fish needs a bicycle」は一般にはグロリア・スタイネムが吐いたことばだと信じられていた。ウーマンリブ運動が吹き荒れていた1970年ごろのことだった。それから30年がたち、2000年にグロリアがある男性と結婚したときに、新聞が「fish got cycle」と報じた。私はその見出しをジャパン・タイムズで見つけたが、おそらくアメリカのどこかの通信社か新聞社のものを転載した記事だっただろう。「魚が自転車を得た」とは、グロリアの心変わりを揶揄すると同時にユーモアを交えた絶妙な見出しだったと思っている。印象に残る見出しだった。