鼠喰いのひとりごと

DL系フリーゲームや本や映画などの感想を徒然に

湘南人肉医

2005-06-10 00:54:16 | 本(小説)

「湘南人肉医」 大石圭
角川ホラー文庫 2003年

***

先日御紹介した「殺人勤務医」と同じ、大石圭さんの本です。
ことば日和のまおさんからも、コメントありましたとおり、
「殺人勤務医」と双子のような構造を持つ話でした。

残酷描写どちらが上かと言われると迷うところですが、
「殺人勤務医」が殺人のバリエーションで勝負するなら、こちらは人体解体の妙技。
一時期、私、開くネット小説、読む本、みんな人肉だったことがあり、
かなり「オナカいっぱい胸焼け気味」だったのですが、
久しぶりに読むこの本はそれなりに楽しめました。

しかし、さすがに小説の構造が似ているだけあって「勤務医」と「人肉医」、
どちらか一冊を読んだ後に、もう一方を読むと、さすがに似てる分だけ
感銘が薄れてしまいます。
好みとしては、最初に読んだ「勤務医」のほうが好きかな。



主人公は「神の手」を持つ整形外科医、小鳥田優児。
彼は体重130キロを越える巨漢ながら、周囲の人間には不思議に嫌悪感を抱かせない、
不思議な魅力を持っていた。
多くの収入をボランティアにつぎ込み、海外の子供たちを支援する彼。
柔和な笑顔で、女性たちに親しみを感じさせる彼。
しかし、彼の家にある大型冷凍庫の中には、彼に食われ、首だけになった女たちが
二度と閉じない目を見開いたまま凍りついていた。
女を殺して食うことで性的な快感を得る彼の行為は留まることを知らず、
次第にエスカレートしていく。


さて、人肉嗜食についてですが。
…やたら詳しいんですよね。この本(汗)
いや、実際食べたことが無いので、それが真実なのかどうかはわかりませんが…
各章につけられたタイトルもいちいち凝ってる。
第一章が「人間の頭が茹で上がるには1時間かかる」ですもんね。
それに…ねーねー、文中での「食べられない内臓の部位を捨て…」って一体どこ?(汗)

過去にこういった趣向の小説が無いわけではないのでしょうが、
大概は解体法や料理法に終始して、食べた味とか感触とかあんまり触れないような気がして…。
このリアルさが怖い。このリアルさが。
作中で随所に挟まれる、人肉嗜食に関する今までの事件のデータも、
事実とわかるだけに、その陰惨さに驚きます。
フィクションより、現実の事件の方が余程酷いんだもんな…。

作中の殺人鬼は、どうやら一般的な性愛の感情ををそのまま「相手の肉を食べる行為」に置き換えてしまっているようなのですが、このあたりも、読んでいて不思議な納得感がありました。
普段、何かストレスが溜まったとき「食べる」ことでそれを解消しようとする置き換えが起こる人は多いですもんね。ましてや、食欲や性欲のような根源的な欲求は、互いの距離が近そうです。

「勤務医」との大きな違いは、主人公の性格と、ラスト…でしょうかね。
近作では、確かに主人公は色々抑圧されていたのですが、基本的に彼自身の性向として
人肉方面(笑)への志向が最初からあったように思うのですよ。
つまり、その…「勤務医」と違って、同情の余地があんまり、無い。

そして、ラスト。「勤務医」ではほのめかされるだけで終わる部分が、
「人肉医」はもう少し先まで書かれています。
これは、ラストが一緒にならないように、っていう苦肉の策なのかしら…
それとも「人肉嗜食」というタブー制の高いテーマを使ったがゆえの、
読者への精神バランス回復の手段なのかしら…って考えすぎか。それはさすがに。

しかし、これだけ似た趣向のものを二冊出しても、どちらも「読ませる」ことに、
感服してしまいます。
普通、なんだー、また似たようなーって感じると思うのね。
確かに、似てる。そもそも基本の組み立てはおんなじだ。
でも、だからといって、途中で読むのをやめようとは思わない。
これって凄いことですね。

人肉に拒否反応の出ないかた(?)にお勧めです。
…ま…広い意味で、愛の話と言えなくもナイ…?

***
追記。ちょっと検索してみたら、映画化されてたんですね…
大石さん自身のコメントが見られます。

「最後の晩餐」 (湘南人肉医、映画化)公開記念座談会

最後の晩餐 公式サイト

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