鼠喰いのひとりごと

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「陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず) 」

2006-07-25 01:39:09 | 本(小説)

「陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず) 」 京極夏彦
講談社ノベルス 2003年

***

やっと読んだよおんもらき!
ネットでの評判がみんなバッシング気味だったんで、あんまり期待しなかったのだけど…
うん、まあ…確かに物語の深みや意外性は無く平板。
京極を読みなれているひとなら、全体の三分の一読まないうちに、
犯人と事件の原因がわかると思うね。
そういう簡単な話でどうしてこんなに厚いのかって言ったら、
薀蓄の量がまた桁違いなのね。
読者が犯人の目星がついてる状態で、何故そんなことになってるのかという
説明&薀蓄がえんえんと…えんえんと…
これはね、本当にツラかった。ハイ。ごめんなさい。
途中部分を多少ナナメ読みしました。

===
白樺湖畔に立つ「鳥の城」と呼ばれる洋館。
関口は、探偵の榎木津に連れられて、何も知らされぬままそこを訪れ、
「伯爵」の5度目の結婚式に出席することとなる。
5度目の結婚式…そう、その家に嫁ぐ花嫁は、皆、結婚式の翌日に命を奪われているのだ。
無数の鳥の剥製に囲まれ、儒教思想に縛られてただ一人暮らす伯爵。
周囲から隔絶された異世界のような城の中で、再び事件は起こる。
===

他の作品は、薀蓄を読むことでいろんな謎や心理が腑に落ちてくる部分も
あるんですが、今回はちょっと無理があったような気が。
前作の「宴」が凄い大作でしたからね。ちょっと気が抜けたのかなぁ、
道具立ては、ちょっと乱歩や横溝を彷彿とさせるような猟奇性があって
面白かったんですがね。

ただ、一つ印象に残ったのは伯爵の「実体験を伴わないので理解できない」という設定。
これ、作中で使われている例は、あまりにも極端すぎますが、
今の世に生きる人間は多かれ少なかれ、誰しも「伯爵」と同じようになる
可能性があるんじゃないかと思いました。

以前のブログにも書きましたが、私はいまだに自分の近しい人間の死を知らない。
だから、その悲しみや、知人の誰か死ぬということを、多分本当には理解していない。
そうでなければ、死を娯楽として扱うホラーなんか好きなわけないけどね(笑)

同じように、今の、平和に護られ決まりきった道を歩かされている子供たちは、
昔と比べて様々な『経験』が欠けているはず。
そして、テレビやネットで表面的な知識だけは豊富に垂れ流されていますから、
そういった「情報」から「理解したつもり」になっている事柄は、
とても大きいのじゃないかな。
…そしてそれが、思いやりの無さや人間性の欠如、という形で現れても
おかしくない…とも、思うんだな。

人が死んだら悲しむもの、と私は知識として知っています。
だから、アカの他人の葬式でも、ご愁傷さまです、と神妙な顔で言うわけですが、
そこに本当の共感はいまだに無い。
悲しむのが当然だから、悲しそうな振りをするだけです。

そんな感じで、今の人間たちの間では、恋愛や友情の面でも、
人を好きになるってこういうもの、こうしてこうしてこうするもの、
友人とはこうつきあうもの、こういう行動はこういう意味、
…なんて、知識だけのごっこ遊びが蔓延しているのではないか…
と、ちょっと怖い考えになってしまいました。

もっとも、私自身、それらを実体験として本当に知っているのか、
と言われると心もとない(汗)
この歳まで来ると、どれが知識からの思い込みで、どれが経験からの推測か、
なんて到底切り分けできません。

こればっかりは、そういう時代に生まれたのだ、と割り切って、
そのまま受け止めていくしか無いんだろうな…


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