鼠喰いのひとりごと

DL系フリーゲームや本や映画などの感想を徒然に

「屍鬼」 小野不由美

2006-08-29 03:40:32 | 本(小説)

「屍鬼」 小野不由美
新潮社 1998年
2002年 文庫化

***

前回のブログの後、改めて読み込んで、なんと人物相関図まで
作ってしまいましたとですよ(笑)
舞台が田舎の村ということで、同じ苗字の親族が一杯出てくるものだからー。
同じ人間が、屋号やら職業やら誰の息子だとやら、
全然違う呼び名で繰り返し登場したりするので、
今回二周目を読んではじめて
「おお、ここのコイツとこっちのコイツは同一人物か」なんて
新たな発見があったりするわけです。
(どっちにしてもマニアな読み方ではあるかもしれない)

書き抜いた登場人物名は、なんと総勢165名。
もちろん、村人の噂話で出てくるチョイ役もあるんですが、
これだけの人数に固有名詞をわりふって、それぞれの生活を作り出した
実力はさすが。
冒頭の、村の立地状況の描写に始まり、日本の田舎の閉塞感というか
怖いくらいの団結っぷりをとてもリアルに描いています。
つか、この人『世界』を立ち上げるのが本当にうまいなー。

===

11月8日、溝辺町北西部の集落で火災が発生した。
折からの乾燥と、初期動作の遅れのため、被害は拡大。
火元である集落…外場村は、周囲の山林を巻き込み、完全に焼け落ちる。
だが、それはひとつの結果にすぎなかった。
その数ヶ月前…7月の終わりに、すでに悲劇の幕はあがっていたのだ。

外からやってきた『余所者』の一家、原因不明の死の病、広がる不安と違和感。
人口1300に満たない、小さくも平和な寒村に、少しづつ何かが入り混じり、
その姿を変容させていく。
「起き上がり」と呼ばれる、蘇る死者たちの背後にいるものは、神か、悪魔か。
果たして、最後に残るのは人間か、屍鬼か。

===

冒頭に、『ジェルサレム・ロットに捧げる』の一文があるとおり、
これはスティーブン・キングの「呪われた町」のオマージュかと思われます。
それにちょっと、アン・ライスの「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」
入ってるカンジ。
呪われた町も、吸血鬼がある田舎村に引っ越してきて、
どんどん村人を襲っていく話ですし、ラストも似てると思った。
呪われた町を事前に読んでいるひとは、ああこれは…と思うんじゃないかな。
ただこの作品は『わぁ似てる』で済まないだけの重みというか、
ボリュームというか、とにかく迫力がありました。
単に設定貰ったよってだけじゃない、本当に、それを芯にして
自分だけの世界…『外場村』という場を作り上げてしまっているのです。

もうね、異常なくらいの過設定ですよ(笑)
絶対、作品にしていないところまで、一人一人の性格とかエピソードを
全部作ってると思う。
小説を読み慣れない人だと、多分、次々出てくる名前の渦に混乱してしまうかも。
閉鎖的な村だけあって、同じような苗字多いし。

そんな調子で、ハードカバー上下巻のうち上巻は、
かなり和製スティーブン・キング風なんですが、
下巻になるとガラリと感じが変わります。
何故なら…そこから今度は、メインの視点が吸血鬼…「屍鬼」側に傾くから。
この辺りから、物語はホラーというより悲哀の色を濃くしていきます。

同じ作者の「黒祠の島」でも思ったのですけど、このひと…
「人間以外のものの常識」からものを見る話が好きなんですね。
考えてみれば、十二国記シリーズも、既存の常識のあてはまらない世界ですし。
その『場』に漂う、見えない空気のような常識感をつくりだすのが上手いから、
作り出す世界にも説得力があるのかな。たぶん。

ちなみに「黒祠の島」は、やはり離島の閉鎖的な村を舞台に起こる惨劇の話です。
殺し方はグロいんだけど、そこがメインの話じゃないんで(笑)
横溝正史が読めれば多分大丈夫。推理小説なのかと思えばそうでもないような。
これもジャンル分けし難い作品でした。

さて、話を屍鬼に戻して。
物語の中で、重要な位置を占めている…主人公格の一人、
人間と屍鬼どちらにもつけない男、寺の若き副住職、静信の迷いは、
正直、途中でちょっとダレ気味。
小説家でもある彼の、執筆途中の作品を通じて、
隠された心理を解き明かすという試みはとても面白かったのだけど…

特に後半部分、私には、彼のその悩みに共感できなかったので。
『何いつまでも悩んでんの? 自分に酔ってるの?』て感じになっちゃって(笑)
『結局お前は見た目13歳の少女に惹かれているんだな? ロリコンめ』
とかさ(笑)

この物語、映画とかアニメにしても、けっこう面白そうなんだけどなー。
ただ、テーマが吸血鬼。そういうのって、メディア側の扱いが雑なんだよね。
キワもの扱いっていうか。
物語のボリュームも凄いし、映画だと入りきらない…
さりとて、連ドラは一般向け用に薄っぺらい話にされるだろうし、
やるとしたら、結局若いアイドルに声優やらせて、そこを一本ピンに立て、
後の人物は添え物として適当に、なんて、原型留めないようなトンデモナイ
ものにされてしまうかも。
着信アリだって、ドラマになったら『なんちゃってホラー』にされたし。
そう思うと…やっぱり小説のままがいいのかな。


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