イギリス/ストックポート日報 《England/ Daily Stockport》

イギリス北西部の歴史ある街、ストックポート Stockportから(ほぼ)日替わりでお送りする、イギリス生活のあれこれ。

世界の歴史の1ページを書き換える大事件、ロシアのウクライナ侵攻に際して思い浮かんだ思い出の食べ物といえば...

2022年02月28日 08時00分00秒 | 英国の食べ物、飲み物

先週2月24日、朝起きてテレビのニュースをつけて、唖然としました。
まさかのロシアによるウクライナ侵略が夜半のうちに始まっていたのです。

前日のストックポート日報に「ウクライナ/ロシアをめぐる緊張もあり、『今すぐ辞任だ』という事態にはなりにくいと思われます」なんて書いたその翌日です。

当然、ロックダウン期間中に重大な規則違反を重ね、バレたとみればしらじらしい言い訳やウソを並べて辞任を迫られていたボリス(嘘つき・ジョンソン首相)への追及はすっかり宙に飛んでしまいました。

ここヨーロッパが戦争に巻き込まれる可能性もある一大事です。

政情の安定しない(中東やアフリカなどの)非民主国家で時々おこっている、正規の軍隊ではない武装した集団が暴力で主張をとおすようなレベルの扮装とはわけが違います。

ヨーロッパの、独立した民主国家であるウクライナに、西欧自由主義に対抗する最大の国家、核兵器保有国でもあるロシアの軍隊が攻め込んできたのです。

ウクライナの首都キエフの胸が痛むような映像を見ていて、ふと思いついたことは...

「そうだ、チキン・キエフが食べたい」というのん気な衝動でした。

いちばん上の写真が、そういうわけでロシアのキエフ侵攻の日にうちの食卓に上ったチキン・キエフ Chiken Kievです。

ウクライナの首都、キエフの名を冠したチキンカツです。

「キエフ Kiev」は英語としても定着したロシア語だったようですね。

現在防弾チョッキを着てキエフから実況中継する英国のニュース特派員はすべて現地読みらしい「キーフKyiv」と発音しています。

ロシア(ソビエト連邦)から独立した後も長く「キエフ」として定着していたウクライナの首都名が、今回のロシア軍による侵攻事件をきっかけに「キーフ」に統一されたのは独立国家であるウクライナへの支援と敬意の意味もあると思われます。

英国での料理の名前は依然として「チキン・キエフ」です。

薄いチキンのフィレでパセリがたっぷり刻み込まれたガーリックバターを巻いて、パン粉のコロモをつけてオーブンローストしてあります。

切るととろーんと溶けたガーリックバターがお皿全体に滲みだして薫り高いソースの代りになります。

(うちの食卓に出したチキンキエフではなく、オンライン新聞のレシピ写真を勝手に借りて載せたのが上の写真です)

 

日本でも「キエフ風カツレツ」という名前で紹介されたこともあるそうですが、たぶんそれほど知られていないのではないでしょうか。

英国(それとアメリカ合衆国でも、だそうです)では大人気の家庭で食べられる定番料理です。

「tvディナー(冷凍食品)」やオーブンに入れて焼くだけの半分調理済み食品として出回っています。

日本でいえばエビフライみたいなものでしょうか。

 

ガーリックバターと、ガーリックバターを巻いた状態のチキンを半冷凍するという過程があって手作りするのはちょっとめんどくさそうです。

オンラインレシピがたくさん見つかったので手作りする人もいるのでしょう。

上の写真を勝手に使わせてもらったBBC Food のレシピサイトでは、厚い胸肉を切り開いて断面に包丁の先を突っ込んでポケットを作り、冷凍したガーリックバターを押し込むというこれまたややこしい独創的な調理法が紹介されています。

半冷凍しなくていいので時短にはなるでしょうけど。(切れ目からバターが流れ出さないのでしょうか)

 

チキン・キエフは私にとって、思い出深い「イギリスの料理」なのです。

30年ぐらい前、マンチェスターの大学に留学していた時知り合った友人のご両親がクルマで40分ぐらいのリバプール郊外にある実家の夕食に招待してくれました。

外国からの留学生なら英国の家庭料理でおもてなししなきゃ、という気負いはなさそうなご家庭で出てきたのがこのチキン・キエフでした。

すっごく美味しくて、しかも日本人好み!

「キエフって何ですか?」

「ソ連のどっかの都市の名前でしょ、ほら原発事故のあったチェノーウィルのあるあたり...」

「(原発事故?あぁ、チェルノブイリ!)あ、あのあたり(見当はつきませんでしたが)、じゃあこれはロシア料理なんですか」

「そうだと思うけど、イギリスではすごく一般的よ」

...というような会話をした覚えがたしかにあります。

冷凍食品だったか手作りだったか明かされた記憶は全くありません(もちろんそんな失礼なことは聞いていません)。

(今から思えば)ソビエト連邦はすでに崩壊後でウクライナは独立国家になっていた時です。

 

その後、何回か冷凍食品を買ってきて、オーブンでローストして食べたことがあります。

たいていおいしく食べているのですが、友人の実家でごちそうになった時の衝撃的なおいしさはそれ以来味わうことができません。

 

今回食べたい!と思って買ってきた、スーパーマーケット、アスダの格安自社製品(右)と、ベジタリアンの夫のために探して、何とか見つけた似たような冷凍出来合い、ガーリック風味の大豆たんぱく製ニセ・チキン・グリル(左)

 

これがうちの食卓に出したチキン・キエフ。

出来上がりを切ったところです。

調理時間が長すぎたためか、とろ~んと流れ出てくるはずのガーリックバターが見当たりません。

チキンとコロモにガーリックバター風味はすっかりすいとられ、それはそれで香ばしく美味しく食べられたのですが本来のサクサクトロ~ンが全く味わえませんでした。

「チキン胸肉100%」の箱書きに偽りはないはずですが、よく見たらチキンを砕いて攪拌して練って形作ったリコンスティチュート食品でした。(継ぎ目も切れ目もない一体成型の大量生産版)

料理の起源ははっきりとしないそうですが、ウィッキピーディアその他には「帝政ロシア時代のキエフのホテルで供された記録が初出の、フランス料理の「コートレット」(日本語のカツレツの語源)のバリエーション」...みたいな説明があります。

ロシア革命時に亡命したロシア人がシカゴのロシア料理レストランで出していたとも書かれています。

けっきょく、ロシア料理なのかウクライナ料理なのかはどこにも明記されていませんが、ロシア、ウクライナを含む東欧の全地域で広く食されている料理だそうです。

その名前にかかわらず、ウクライナのロシア、ソビエト連邦の併合時代に広まった料理なので「ロシア料理だ」と決めつけているアメリカ人、西欧人は多いのじゃないかと想像がつきます。

1976年に英国のデパート、マークス&スペンサー(現 M&S)が初めて製造販売した冷凍食品がチキン・キエフだったそうです。

以来、チキン・キエフと冷凍食品の人気は絶え間なく続いています。

 

ちなみに...

夫が食べたガーリック風味のニセ・チキンのカツレツはボソボソですごく不味かったそうです。

チキン・キエフについて検索してわかったことの一つは、現在英国で販売されているベジタリアン/ビーガン対応の出来合い料理で最も人気なのがチキン・キエフだということ...

どこのスーパーマーケットでも全商品を扱っているわけではないので検索してみたら、ザックザク出てきたものの一つが、これ。

(宅配専門の食材販売オンラインサイトから勝手に借りた写真です)

鶏肉部分はキノコ類でできているそうです。

写真を見るかぎりサクサクトロ~ン...おいしそう!(調理時間を間違えなければの話ですが)

興味津々、私が買って食べてみたくなりました。

 

最後になりましたが、ウクライナに平和が戻り人々が心穏やかに暮らせますように。

ロシア、撤退しろ!

各国の経済制裁がプーティンを圧迫して功を奏すればよいのですが。

 

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4 コメント

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はじめまして (H.W.)
2022-02-28 09:55:45
しばらく前に「どなたかヨーロッパでスプラットを食べている人はいないか?」と検索してこちらに行き当たった、EU(オーストリア)市民です。
当のウクライナ人の中にも誤認している人もいると少し前に知って驚いたのですが、ウクライナはEU加盟国ではありません。NATOはともかく、せめてEUに加盟できていればこんなことにはならなかっただろうに、と思います。
キエフ・カツレツ、40年前に初めて短期留学中だったモスクワで食しました。東欧圏ではどこでもよく見かける料理です。イギリスでは割とスタンダードなお料理なのでしょうか?意外でした。Kievはロシア語、Kyivはウクライナ語です。
返信する
H.Wさんへ (江里)
2022-02-28 21:14:09
H.W. さん、ご指摘ありがとうございます。
「ウクライナはEU加盟国である」と非常に重大な思い込みを確認もせずに記事に書いて投稿してしまいました。さっそくなおします。気になることは調べてから書いているつもりなのですが、全く思い当たりませんでした!
英国では夏から秋の終わりまでイチゴ、果樹...と果物の収穫にたくさんのウクライナ人(とポーランド人)の季節労働に頼っています。
ブレクシットの後どうなるの?!という議論が盛んでした。パンデミック前にパーティで知り合った、レストランのマネージャーをしていたウクライナ人の若い女性もブレクシット後の先行きを心配していましたし、英国で就業するウクライナ人の多さから、ウクライナは絶対にEU加盟国だと思い込んでいました。ユーロビジョンソングコンテストに毎年出場しているというマヌケな理由もあります。しかも同じくユーロビジョンに毎年出場している、EU加盟国ではないのが絶対明らかなロシア人の英国での就労は難しいそうですよ。ロシア人で英国に永住したがっている人はとても多いそうです。
ウィッキピディアにはチキンキエフのロシア語名とウクライナ語名(微妙に違いの分かるローマン表記の発音ガイド付き)が併記されていたので、Kiev がロシア語であることは何となく想像ができました。教えていただきありがとうございます。
ウクライナ独立後もたぶんずうっと英語では「キエフ」として通っていたと思うのですが、今回ロシアの進攻の件で英国メディアではいっせいに「キーフ」に統一しはじめたのはおそらく独立国ウクライナへの支援、敬意の意味があると思います。
記事に付け加えるつもりです。
けっきょく、チキンキエフはロシア料理か、ウクライナ料理かどこにも明記されていなかったのですが!!!
単にキーフのホテルで供されて評判になった(最初の??)記録があるのでチキン・キエフとよばれて定着したみたいですね。
東欧で広く食べられている、ということなのですね?
貴重な情報ありがとうございます。そのことも書き足します。6
内陸国のオーストリアに長くお住まいの日本人がスプラットに興味をもたれているのが興味深いです。
そういうご研究でもされているのでしょうか。
返信する
スプラット (H.W.)
2022-03-02 10:20:18
海のないオーストリアで、(たとえ冷凍であっても)頭も皮もついたまともな海の魚がスーパーで手に入るようになったのは、この数年のことなのです。私がこちらに来た25年ほど前にはそれこそ、魚はIglo(UKではBirds Eye?)の合板のような切り身、もしくは皮を剥いだフィレの冷凍くらいしかありませんでした。
ウチの旦那は川釣り(フライ)をするので、山女やニジマス等川魚はいつでも食べられるのですが、私はやはり“皮がついて”脂の乗った海の魚が好きなのです。
スプラットはドイツ語でSprossenというのですが、Riga-Sprossenという(江里さんも書かれていたラトビア産の)燻製オイル漬けはよく見かけても、生のものは見たことがありませんでした。
昨年近所のスーパーで、冷凍ですがまるのままのスプラット1kg袋を見つけて買い込んだのですが、実は私、スプラットを勝手に「シシャモ」だと思い込んでいたのです!笑 買ってから改めて調べてみて、全く違う魚だと分かり、さてどうやって調理するのが良いのかと調べるに至った次第です。
イギリスは墺とは真逆で海に囲まれているから、日本と同じくらいに海のものには恵まれているのでしょうね。羨ましいです。
キエフカツレツのことも少し調べてみましたが、どうも最初にこの料理の名前が出てきたのは、当時のペトログラード、現在のSt.ペテルスブルグのようです。ロシア語のWikiでもウクライナ後のWikiでも、ウクライナ料理とされています。私はロシア人が作ってそう名付けたような気もするのですけれど...?
ごめんなさい。長くなってしまいました。
日に日に悪化するウクライナの状況には、本当に心が痛みます。世界の大半がウクライナ支援に尽くしていても、直接ロシア軍の侵攻を止めることはできないのが辛いな...
返信する
H.Wさんへ (江里)
2022-03-03 08:03:56
H.W.さん、さっそくお返事ありがとうございます。
内陸国でどんなサカナが食べられているかなんて住んでいる方からしか聞けない話です。貴重な情報です。
日本に住んでいる人たちから海洋国の英国も海産物が豊富でしょう、とよく聞かれるのですが、実はぜーんぜん...です。
フィッシュ&チップスに使うプレイスとコッド、ニシンとサーディーン(その仲間のスプラット)それにスコットランドのサーモンぐらいしかスーパーマーケットに出てきませんよ。イギリス人のお気に入りのホリデー先のスペインやポルトガルで魚料理を楽しむ人も多いようですが、実はブレクシットが完了後、「ブレクシットで困っている産業」なんてニュースレポートをよく見るのですが、知らなかったこともわかりました。英国では自国ではあまり見かけないエビやらカ二、カレイやら、それにホタテ貝のような高級海産物を大量にEU国に輸出しているのだそうです。フランスの海岸沿いのグルメレストランや英国人が日光を浴びに行くスペインのリゾート地ではイギリスで捕れた海産物も供していたわけなのです。ブレクシット後、課税なしの合意は得たものの今まで不要だった書類の煩雑なやり取りがネックになってそのためのコンピュータシステムを導入したり専門の職員を常駐させたりで、EUへの輸出がわりに合わなくなり、廃業する漁師続出、だとのこと。とれてるのに、自国ではあまり食べないんですねー。不思議です。
近頃マンチェスターのフィッシュ・マーケットに行ってたくさんの種類の魚の写真を撮ってきました。
そのうち載せるつもりです。ちょっと時間がたってしまったので他の前日撮った写真とも組み合わせて...と準備が必要になってきました。
つまり、そういうところにはあるのですが、客筋は限られています。例えば西インド諸島からの移民の子孫とか
その時はお友達どうしらしいたくさんの中国人留学生が魚を買っていました。
チキン・キエフの由来をほじくるのはやめました!本当にいろんなことが書かれています。
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