かがみの孤城

2019-07-23 17:17:20 | Book
読みやすい文章。丁寧に張られた伏線。わかりやすいキャラクター。
これらが全体的にレベルが高くまとまり、とてもエモーショナルなストーリーと相まって、世間から高評価を得るのは当然だろうと思うが、一方で、個人的には、作者のメッセージに強い違和感を感じた。

・正しい主人公サイドと、最後まで悪役のクラスメートや先生。
・マイノリティを肯定し、マジョリティを否定する価値観。
・分かりあえる人たちとだけ分かりあえればいいという割り切り
これらに昨今のMeToo運動と同じ、気持ち悪さを感じる。

孤城に招かれた7人の子どもたちの中で、アキは完全な被害者だが、他の子どもたちには明らかな甘えがある。もちろん誰にだって弱い部分もあり、サポートは絶対に必要なのだが、「普通に頑張っている人」たちをディスるように描くのは、とても違和感がある。自分も「普通に生きられない人」なので、ハミ出した人に救いを与えるのは当然だと思うが、それができるのは、大勢の「普通に頑張っている人」たちが社会を支えているおかげであり、「普通に頑張っている人」がいなければ、「普通に生きられない人」を救うことは絶対にできない。

これは、大企業が稼いだ税金で支援されているベンチャー企業が、大企業をディスっているのと同じで、理屈としておかしい。

また、人間なんて、傷つけられることもあれば、傷つけることもあるわけで、一方的な被害者というのは、そうそういないだろう。最終的に、こころが、クラスメイトたちと共存せずに、わからないやつとは関わっても仕方ないと住み分けてしまうのは、現状の、どうせ話しても無駄だと互いに煽る日韓関係と同じで、こんなことをしていたら、社会はますます分断されてしまう。

本作では、アキやウレシノと、スバルやマサムネを、均等にあつかっているが、これでは、レイプされた人も、売名行為の人も同じに扱う、Metoo運動と同じだろう。こんなことをしていたら、本当に助けるべき人を、助けられなくなってしまう。

また、価値観の違う人間とは、心の中でバカにしたり怒りを感じながらも、愛想笑いでごまかすから、世の中なんとかなるのであって、それを否定したら、めちゃくちゃになってしまう。

売れている作家ならば、狂信的なテロリストが、一番、心がピュアな人たちであり、日和見主義者がいてこそ社会が平和になるという皮肉な現実に、きちんと向き合った作品を送り出して欲しい。

なお、7人の関係や喜多嶋先生の正体については、早い段階でわかってしまったので、終盤での驚きはなかった。

いろいろ不満もあるが、プロとアマチュアとの間にそびえる壁は、むちゃくちゃ高いことを思い知らされた。このレベルの作品を自分が書けることは、残念ながら無理である。

かがみの孤城
かがみの孤城
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