容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別

2016-03-02 10:14:37 | Book
ジョン・ダワーの日本の戦後に焦点を当てた「敗北を抱きしめて」が面白かったので、戦時中を題材にした本作を読んでみた。
戦争中の虐殺とも言える大量の死傷者の原因の背景として、人種差別を主原因として論旨展開をしている。確かに、米国による日系人の強制収用や、日本の東南アジア諸国の差別的な支配体制には、人種差別の側面もあるだろうが、戦争被害が拡大した主要因として感覚の麻痺が大きいのではないだろうか。

本作を読んでいても、最初の方は戦闘地域での膨大な被害や残酷な虐殺行為を集中して読んでいたが、延々と同じような話が続くと正直だんだんと飽きてしまい、どんどん斜め読みになっていく。結局、実際の戦争でも最初は違和感を覚えていても、エスカレートしていくうちに気にならなくなり、被害が爆発的に増えたのではないか。

現代人の視点からだと、ポルポトやナチスの虐殺を尋常でない事柄のように取り上げるが、死傷者数だけ見れば、日本もアメリカも大戦中に何十万、何百万と殺しており、大戦中は被害者だった東アジアや東南アジア諸国でも同じような事をしているし、当時の人口を考えるとローマ人のカルタゴや、スペイン人の南米での行為なども大虐殺であり、結局、どの時代のどの国でも一度スイッチが入ったら止まらないのだろう。

逆に不思議なのは、大戦でこれだけの被害があったアジア地域、特に日本を中心とする地域が平和になったこと。中東やバルカン半島で常に小規模な戦闘やテロが慢性的に行われている事を考えると、太平洋戦争の原因となった日本人が、戦後、他国の軍隊に誰も殺されないという状況は、異常ともいえるぐらい安定している。いくら戦後体制が変わったといっても、東南アジア諸国からの日本人へのテロや、未だに占領体制となっている在日米軍に対し、日本人からアメリカ人への大規模抵抗活動があっても、本来不思議ではないのではないか。

反日教育を強化している中国でさえ、せいぜい大規模デモが起きた程度で、建物は壊されたり略奪されたりしても人的被害がない等、戦時中の殺し合いに比べれば児戯にも等しいだろう。また、普通に考えて殺したいほど憎い国の物は買わないだろうから、爆買いする中国人に至っては、日本はただ高品質な物を売っている国というだけの位置づけなのだろう。

結局、被害者側が国を挙げて戦争教育をしてプロパガンダを繰り返しても形骸化していくのだから、加害者側の日本で戦争の記憶を留めようとしても、とうてい無理があるのではないか。

容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別 (平凡社ライブラリー)
容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別 (平凡社ライブラリー)ジョン・ダワー John W. Dower

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