興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

プロセスの重要性

2006-09-27 | プチ臨床心理学

「結果よりもそのプロセス(過程)が大事」とは、
よく聞く言葉だけれど、日常生活の中で、どれだけの
人が、実際に結果よりもプロセスに重点を置いて
物事を判断しているだろうか・・・

こういう疑問は時々抱くのだけれど、今回はこの
「プロセスの重要性」について少し考えてみたいと思う。

世の中にはもちろん、「結果がすべて」という現実が
存在する。しかし、多くの物事においては、結果と
同じくらい、いや、それ以上に、そこまでの過程が
大切な事象も多い。

とにかく結果の方に意識や重点を置いている人のことを、
英語では、"Goal-Oriented"などと呼んだりするけれど、
極端に「目的達成」ばかり考えている人は、しばしば、
その過程の中で本来経験すべき気持ちや感情をあまり
経験しないで通り過ぎてしまうことが多い。

Goal-Orientedの人は、いかに目的を達成させるかを
効率よく考えるので、実際最終産物は完成度の高い
ものが得られることが多い。しかし、同時に、
ゴールのことばかり考えているので、気持ちに余裕が
なく、その過程を楽しんだり、その過程の中でいろいろ
学んだり、という好機を逃すことも多い。

(ちょっと余談だけれど、SEXにおいて、男性は
どちらかというと、ゴール(つまり射精)の方に
意識が向いている傾向にあるのに対し、女性は、
そこまでの過程のほうを大切にする傾向がある、と
言われているけれど、これも非常に興味深い話だと思う。
話を元に戻そう・・・)

さて、どれだけ物事のプロセスが大切かは、あなたが
今までに経験したいろいろな物事において、何が一番
あなたにとって大切な思い出になっているか、また、
何があなたを成長させたかを考えてみると分かると思う。

たとえば、ある人が教習所に通いつめて苦心して
車の免許を取ったとする。その時の達成感はとても
大きなものだと思う。後になってから、この人は、
免許を獲得した日を思い出しては幸せな気持ちに
なるだろう。でも、この人がもっとよく思い出すことは、
もしかしたら、それまでの小さな失敗や成功の試行錯誤
だったり、その教習所での小さな出会いだったり、
街に繰り出したときの風景だったりするかもしれない。

とにかく心を無にして、短期間で割り切って免許を
効率よく取ることだけ考えて免許を取った人は、
そのような風景や感情をあまり経験していないかもしれない。

と、ここまでで僕が言いたいのは、これから何かに
取り組むとき、また、人との付き合いなどを含めた、
様々な行動の中で、その過程の方を大切にしながら
行動していくと、思わぬ収穫やこころのゆとりが
出てくることが多いかもしれないということだ。

さて、ここからが今回の話題の本題である。
ここまでは、「自分」のプロセスとゴールについて
書いてきたけれど、これから、他者のゴールとプロセスに
ついて考えてみようと思う。

これは恐らくは当たり前のことなのかもしれないけれど、
私たちは、他者の経験において、多くの場合、その最終産物に
ばかり注意が行きがちで、そのプロセスについて考えることを
忘れがちである。

たとえば、誰かがある日突然、「会社を辞める」という
決断を打ち明けるとする。すると、多くの人は、とかく
「何で?」「どうして?」「やめるのは簡単だけど
もっとよく考えなよ」「甘いなあ」・・・などとついつい
言ってしまうものだけれど、その時に忘れがちなのは、
その人が、打ち明けるまでにどれほど考えたり悩んだり
したかという、その可能性についてだ。

会社を辞めるという、大切なことを、そうそう気軽に
決断する人もいないのは、少し考えればわかるもの
だけれど、他者の試行錯誤やプロセスは、見えにくい
だけに、忘れがちだ。

他者が何かの決断を下すまでに通ってきた過程を
考慮にいれることを忘れているために、周りの人が
その人を責めてしまうこともよくある。

たとえば、ある女性が、悩みに悩んだ挙句に、
妊娠人工中絶を選んだとき。

この女性の決意は、様々な葛藤や罪の意識や罪悪感に
さいなまれて、本当に大変なところを通ってきて、
ようやく出てきた結論なのかもしれない。

しかし、その最終産物である、「中絶」という事実だけに
人々は注意を向けがちで、勝手な推測や想像などを
無意識にこの女性に投影して、心無いことを言ってしまったり
する。面と向かって言わなくても、陰でそのようなことを
いう人は多いと思う。

これは、「プロセス」について察することをしないがために
傷ついている人をさらに追い込んでしまうというケースだ。

最近、ある人が、妹の結婚式に出ないことを、本当に
悩みに悩んだ挙句に決心した。その人は妹と大の仲良しで、
妹も、その人の決断を理解していたのだけれど、共感性に
欠ける両親は、その人を強く非難した。
その人が、その結論に至るまでにどれほどの涙を
流したのか、彼らはまるで分からないようだ。

皮肉なことに、他者の決断や結果において、その事象が
重要なものであればあるほど、周りの人間は、プロセスを
考慮しないで、自分の感情を投影して、その人を非難したり
裁いたりしがちである。大事な物事というのは、それだけ
私たちにとって、強い思いを伴うもので、その過程を
考慮に入れる余裕もなくなりがちなのだろう。

以上の様なことを踏まえてみると、プロセスについて
考えることは、それが自分のものであっても、他者の
ものであっても、心の余裕に繋がるもので、非断定的で
ゆとりのある人間関係にとってとても大切なもののように
思える。

あなたの周りの誰かが最近思いがけない決断をした時、
その決断に対して直接的にコメントするのではなくて、
その背景にあるいろいろなことを推し量ったり、なんとなく
聞いてみたりすると、あなたはその人にとって、より
支持的になれて、その人のこころの支えになるかも
知れない。