「憎しみが世界を支配してはならないから」
アーサー・ラドヴァンスキーさんはこれを信条に、ドイツ人との和解に後半生を捧げた。ユダヤ系のチェコ人であり、1939年にナチに捕えられてから6年間で6つの強制収容所を体験し、生き延びた。父はブヘンヴァルト強制収容所において、自分の腕の中で亡くなった。その6年がどれほどの体験だったかは『それでも私は生き延びた』(ドイツ語)という本にまとめられている。
ラドヴァンスキーさんはそれでもドイツ人を憎まなかった。「私を苦しめたのはドイツ人だが、助けてくれたのもドイツ人だった」からであり、憎しみが引き起こす災厄を体験したがために、これ以上「憎しみが世界を支配してはならない」と確信するからである。ドイツの市民団体「行動・償いの印・平和奉仕」の活動に惜しみなく協力し、ドイツ人ヴォランティアの受入れのために、同じく強制収容所を生き延びたミヒャエラ・ヴィドラコヴァさんと共に尽力した。
僕はこのラドヴァンスキーさんと会いたいと願っていた。しかしそれはかなわなくなってしまった。今年の8月にプラハを訪れたときヴィドラコヴァさんにお尋ねすると、「とても弱っていて会える状態ではない」とおっしゃっていた。そして今年の11月1日にお亡くなりになっていたことを、つい最近インターネット上で知った。
「行動・償いの印」のヴォランティアたちが、心を込めてラドヴァンスキーさんの体験を文字にした本『それでも私は生き延びた』が、僕の手元にはある。これで僕はこの平和を生きた人の物語を語り継いでいくことができる。
「最も危険なのは、わめきちらす少数派ではなく、沈黙し、無関心な多数派だ」このラドヴァンスキーさんの言葉は、まさにこの日本にも通じるのではないか。多数の傍観者を作らないのは、教育とメディアの仕事だ。ラドヴァンスキーさんの言葉を胸に、来週も教壇に立とう。
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