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小田博志研究室

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大地のケア

2023-03-01 | 研究・教育
「スチュワードシップ」という言葉を、カナダのユーコン大学での留学から帰った知人から聞いた時、扉が開かれる思いがした。
 ところが、この大事な言葉にぴったりの日本語が見当たらない。まずこれは土地と先住民族との伝統的な関わり方を指す言葉のようだ。その方の説明だと、土地や川や海、またそこに生きる植物や動物の恵みを人が受けながら、それらを守り、次世代に引き継いでいくことらしい。だから近代的な「所有」とは根本的に違う。自分の所有地だからと、我が物顔で資源をあさったり、お金目当てで開発したりすることではない。それと違って、人とその土地――大地の方がいいかもしれない――とのつながりの感覚がベースにあるようだ。するとこれは、人が自分の向こうの自然や環境を一方的に保護したり管理したりする、ということでもないのだ。
 この言葉を聞いて以来、ふさわしい訳語は何か考えてきた。さしあたり「大地のケア」がいいかな、と思っている。ここで大事な前提は、大地も生きているということだ。その生きている大地の中で、草木も、虫も、魚も、人を含む動物も生きている。このいのちの網の目は切り離すことができない。人は生きものとして、大地とそこで生きとし生けるものの息吹を感じ取り、それがいきいきと、健やかに巡っていくようにケアをする。そのようなつながりを示す言葉が「スチュワードシップ」なのだ。
 人が大地をものとしてコントロールするのではなく、いのちとしてケアをし、大地からもケアされる。それを指す言葉が暮らしの軸となった時、そこにいのちの風景があらわれるだろう。
 (北海道新聞夕刊〈魚眼図〉2023年2月14日掲載) 

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