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小田博志研究室

研究情報とブログを掲載

敬意をもって

2014-01-16 | 映画
 (北海道新聞夕刊<魚眼図>2014年1月15日掲載)  それは数百人だったとも言われている。アフリカを出た人類の祖先の数である。数万年前、そのわずかな数の人々は、大地のさまざまな方向へと歩みを進めていった。ユーラシア大陸の東端から、当時、地続きだった北米に渡り、さらに南米最南端に到達したのは1万年以上前。かつて私たちの祖先が見た風景は、どのようなものだったのだろう。地球に生きる全ての人類は、こ . . . 本文を読む

「イン・マイ・カントリー」

2009-12-30 | 映画
 南アフリカ共和国の真実和解委員会を題材にした2004年の映画。  ジョン・ブアマンがこんな作品を撮っていたなんて知らなかった。なかなか見応えがあった。  サミュエル・ジャクソンとジュリエット・ビノシュという人気俳優が出演しているにも関わらず、どうやら日本では劇場公開されなかったようだ。映画は「イン・マイ・カントリー」って漠然としたタイトルになっているけれども、原案となった本の題はCountr . . . 本文を読む

「アバター」

2009-12-28 | 映画
 映画というメディアの極みであり、そしてここから新しい映画の歴史が始まる。  ジェームズ・キャメロン監督の新作「アバター」を観てそれほどの感慨をもった。  3D版を観ると、本当に惑星パンドラにいるかのような感覚に陥る。これはもはや体験だ。  ただそのためには専用メガネが必要で、重いし画面が暗くなってしまう。撮影技術の進歩を待って製作を始めたというこの映画だが、このメガネ自体は昔ながらのもの。 . . . 本文を読む

「氷海の伝説」

2009-01-06 | 映画
 2001年カナダ、監督:ザカリアス・クヌク、主演:ナタール・ウンガラーック、シルヴィア・イヴァル  イヌイットのスタッフ、イヌイットのキャスト、そしてイヌイット語のセリフで映画を作るという斬新な企画。「足の速い男」の伝説を映画化したものだ。これが実現されたことがまずすごい。  観ている内に、イヌイットの生活にすぐ近くで接しているような不思議な感覚に襲われた。それは見慣れたヨーロッパ的な映画の . . . 本文を読む

「ナイロビの蜂」

2008-12-31 | 映画
 これはたいへんな力作だ(2005年イギリス、監督フェルナンド・メイレレス、主演レイフ・ファインズ、レイチェル・ワイズ、原作ジョン・ル・カレ)。  アフリカを舞台にしたシリアスな社会派ドラマに挑戦し、それを高い水準で実現している。しかし後述するような限界も抱えている。それはアフリカ人がどう描かれるのかという問題に関わる。  主人公はイギリス人の外交官とその妻。夫のナイロビ赴任に同行した妻は、欧 . . . 本文を読む

「エメラルド・フォレスト」

2008-12-30 | 映画
 これは懐かしい映画!(1985年アメリカ、監督ジョン・ブアマン、主演パワーズ・ブース、チャーリー・ブアマン)僕が学部学生だった頃、授業で観てたいへん印象に残っていた。ふだんの講義より一本の映画の方が記憶に焼きついているというのはどういうものだろう・・・  アマゾンの熱帯雨林開発(=破壊)と先住民族との関係がテーマの映画だ。ここで先住民族がどのように描かれているのかをみてみよう。  アマゾン川 . . . 本文を読む

「君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956」

2008-12-29 | 映画
 この映画はいわゆる「ハンガリー動乱」に材を取っている(ハンガリー2006年、監督:クリスティナ・ゴダ、主演:イヴァーン・フェニェー、カタ・ドボー)  1956年10月23日、ソ連の覇権に対して、ブダペスト市民が自由を求めるデモを行なった。それを当時のハンガリー政府とソ連駐留軍は武力で弾圧。事態は市民との武力衝突へと発展する。この抵抗戦が物語の中心テーマだ。そして、水球選手を主人公にすえて、冒頭 . . . 本文を読む

「ミシシッピー・バーニング」

2008-12-12 | 映画
 1990年ごろです。「ミシシッピー・バーニング」という映画を観ました。人種差別をテーマにした映画です。あの映画に強いショックを受けました。特に公民権運動の活動家の暗殺に警察が関わっていたという部分に。それは警察が行うべき任務ではないとあれを見て気づいたのです。暗殺なんかするべきではなく、むしろ保護すべきではないかと。それからネルソン・マンデラの自伝を読みました。以来私のものの見方はすっかり変わっ . . . 本文を読む

「海女のリャンさん」

2008-11-29 | 映画
 DVDでドキュメンタリー映画「海女のリャンさん」を観た(2004年、監督・原村政樹、桜映画社)。これはかけがえのない映像遺産だと特筆したい。  済州島に生まれ、大阪生野に移り住んだ在日一世の女性リャンさんが主人公だ。  具体的な一人の人生を描いた90分の映画だが、その向こうに東アジアの大きな歴史が浮かび上がってくる。日本で制作された映画で、これだけのトランスナショナルなスケール感があるものは . . . 本文を読む

「善き人のためのソナタ」

2007-08-30 | 映画
 ドイツにおいて「過去の克服」だとか「記憶のポリティクス」といえば、まずナチスの戦争犯罪が関連づけられる。しかし近年、東ドイツの「国家保安省Stasi」もそこに加えられている。  Stasiの建物は現在では記念館となって開放されている(Stasi-Museum)。このような転用の仕方自体、現代ドイツの記憶のポリティクスの一面として興味深い。  このStasiを正面からテーマに据えたのが、映画「 . . . 本文を読む

「ブラザーフッド」

2007-03-13 | 映画
 「ブラザーフッド」(2004年、韓国、カン・ジェギュ監督)の冒頭のシーンに特別に心動かされたのは、それが朴善周(パク・ソンジュ)先生のお仕事と関係あるからだ。  この映画の冒頭は、朝鮮戦争戦没者の遺骨発掘のシーンだ。この仕事を先駆的に行ってきたのが、3月4日の第5回北海道フォーラムで講演をしてくださった朴善周教授だったのだ。朴先生は、昨年の浅茅野での発掘プロジェクトでは遺骨の鑑定を担当され、さ . . . 本文を読む

「明日へのチケット」

2007-03-10 | 映画
 ヨーロッパの鉄道に乗るのは楽しい。とても”トランスナショナル”だから。いろんな国籍の人々が混ざり合って乗っている。アジアやアフリカから来た移民もたくさんいる。車中はさながら現代ヨーロッパの縮図だ。  そして(東欧諸国を除いて)パスポート検査が撤廃されているから、いつのまにか国境を超えて隣国を走っている。レールの向こうは外国だ。  映画「明日へのチケット」(シアターキノで現在公開中)はそんなヨ . . . 本文を読む

「二十四の瞳」

2007-02-18 | 映画
 今月、NHK文化センター札幌教室で「映画を通して平和をつくる」という一日講座をもった。それに関係して、勉強のつもりで「二十四の瞳」や「ひめゆりの塔」といった日本の古典的な反戦映画のDVDを買っておいた。時間が取れないまま、講座も終わった今頃になってまず「二十四の瞳」の方を観た。木下恵介監督、高峰秀子主演の1954年公開版だ。  映画評論家の佐藤忠男氏は、いわゆる「反戦映画」の大半は日本人を戦争 . . . 本文を読む

「不都合な真実」

2007-01-31 | 映画
 札幌では今日雨が降った。  厳冬、雪深いはずの1月なのに。これから雪まつりという時期に。やはり製作中の雪像に被害が出ているらしい。こちらに来て6回目の冬で、こんなことははじめてだ。道は融けた雪でぬかるみ、歩きにくい。例年だとこうなるのは3月の末ごろじゃないだろうか。  そういえば12月末にも雨が降った。その日に乗ったタクシーの運転手さんは「こんなことははじめてだ」と言っていた。  そういう . . . 本文を読む

「ガーダ ―パレスチナの詩―」

2006-10-25 | 映画
 (北海道新聞夕刊<魚眼図>2006年10月23日)  映画「ガーダ パレスチナの詩」の先行上映会に行って来た。  パレスチナ・ガザ地区の現実を伝えるのにこのようなやり方があったのか、と感心した。  そのやり方とは、ガザの人々の日常生活を丹念に描き出すということだ。  ガーダという名の一人の若い女性と、その家族の生活を、何年もの時間をかけてていねいに追っている。観ているこちらは、ガーダとま . . . 本文を読む