心からお勧めしたい本たちです。
『色を奏でる』志村ふくみ(文)、井上隆雄(写真)、ちくま文庫、1998年
これまで手にしたなかで、もっとも美しい文庫本かもしれない。たった2ページの「色をいただく」という文章は、草木染めに関するものでありながら、エスノグラフィーの本質にも通じる。
『森と氷河と鯨ーワタリガラスの伝説を求めて』星野道夫、世界文化社、1996年
ソフトカバー、文庫版も出ている . . . 本文を読む
田中克2008『森里海連環学への道』旬報社
一水産学者から、森と里と海のつながりの学へと踏み出していった田中先生の自伝的著作。専門分化、縦割りが進む研究の世界において、その先見の明はすばらしい。
印象に残ったフレーズを引用しておきたい。
「生きた存在としての干潟を更新する川からの砂泥の流入がなくなれば、干潟は疲弊するのは明らか」(121)
「生きた海の存在にとって不可欠な川を介し . . . 本文を読む
松永勝彦2010『森が消えれば海も死ぬ―陸と海を結ぶ生態学(第2版)』講談社。
これは名著だ。「理系」の啓蒙書シリーズ「ブルーバックス」の一冊だが、感動してしまった。わかりやすく、しかも情熱をもって、自然界の、そして自然と人間とのつながりを説いている。北大の学生には、専攻を問わず一読を勧めたい。
著者はかつて北大水産学部におられた。しかしその研究の特徴は、海を見つつも海だけにとどまらず、 . . . 本文を読む
(北海道新聞夕刊<魚眼図>2012年5月29日掲載)
辻邦生のエッセー集「生きて愛するために」に、印象深い一節がある。大学を卒業した年の春、辻は急性肝炎を発病し死線をさまよった。病は奇跡的に回復し、退院できることになった。それは5月のある晴れた日、大学構内の図書館前を通りかかったときのこと―。
「樟(くす)の大木の新緑がきらきら輝いていた。私は思わず息を呑(の)んだ。これほど美しいものを . . . 本文を読む
札幌では初雪が舞いました。この間まであんなに暑かったのに、紅葉を楽しむ間もなく冬に切り替わったようです。
さて『質的研究の方法―いのちの〈現場〉を読みとく』(波平恵美子、小田博志、春秋社)にいくつか誤植がありますので、ここで訂正させていただきます。
p.xii. 6行目誤 『民族学の旅』正 『民俗学の旅』
p.48 後ろから5行目誤 「エスノグラフィーというもののは、」正 「エスノグラフ . . . 本文を読む
久しぶりの更新です。北大のキャンパスはすっかり秋めいてきました。
『質的研究の方法―いのちの〈現場〉を読みとく』(春秋社)の紹介です。
波平恵美子先生が〈語り手〉で、私が〈聞き手〉という体裁で編まれた本です。
波平先生は日本の村落社会を「ケガレ」の視点から分析したお仕事で知られ、さらに日本に医療人類学という分野を導入し、牽引してきた功労者でもあります。脳死臓器移植というアクチュアルな . . . 本文を読む
高松空港の書店で、ちょっと気になっていた村上春樹の『東京奇譚集』(新潮社、2005年)を買った。飛行機の中で読み始めると、これがなかなか面白くて、物語の力ということを考えた。
五つの短編が収められている。それぞれにスタイルが違っていて、個性的。共通しているのは「奇譚」であるということ。つまりどの作品の中でも、不思議な出来事が起こったり、奇妙なものが登場したりして、それが主人公の人生に影響を及 . . . 本文を読む
90年代中盤から2001年まで、7年ほどヨーロッパに滞在するあいだに、日本ではいろいろなことが変わってしまった。かつては書店の日本文学のコーナーで、「辻」のところには「辻邦生」の本が並んでいたものだが、今では「辻仁成」が幅をきかせている。各社の出版目録からも、辻邦生の作品の多くが消えてしまっていて残念な思いがする。だから古本屋に行くと、つい「辻」のところで探してしまう。 札幌・大通のいわゆる新古 . . . 本文を読む