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小田博志研究室

研究情報とブログを掲載

カンタ!ティモール

2024-04-17 | 魚眼図
 僕らのあやまちを、大地は見ているよ というフレーズからはじまる歌に導かれて、広田奈津子さんは南海の島へと旅立った。その島の名はティモール。その東半分の東ティモールが2002年に独立を果たすまでに、この島の人々は幾多の苦難を経験しなければならなかった。ポルトガルの植民地支配、日本軍の占領、そしてインドネシアの軍事侵攻。そのインドネシアを日本政府が支援し続けたことも忘れてはならない。 広田さんは島の . . . 本文を読む

言葉はことのは

2023-09-09 | 魚眼図
 「言葉」という言葉は不思議だ。なぜ葉っぱの「葉」が付くのだろう。 『古語辞典』(大野晋ほか編、岩波書店)を紐解(ひもと)いてみると、次のように説明されている。口でいうコト(言)と出来事のコト(事)はもともと未分化だった。しかし時代が下ると両者が区別され、事の一端を示すに過ぎない発言や、口先だけの表現もあることから、コトのハ(端)、すなわちコトバというようになった。 これに対して、北大で言語学を講 . . . 本文を読む

高野山大学

2022-07-06 | 魚眼図
 教室の窓の向こうに森が広がり、時おり鐘の音が聞こえる。室内には剃髪(ていはつ)で作務衣(さむえ)姿の学生さんたちもいる。私はいま研究休暇をいただいて、ここ高野山大学(和歌山)に国内留学をしている。空海の思想がわかるようになりたいと思ったからだ。高野山は八つの峰々に囲まれた山中の盆地で、弘法大師空海は約1200年前ここに「修禅の一院」を開いた。実はこの地の「大学」には長い歴史がある。 約500年前 . . . 本文を読む

殺すなかれ

2022-04-05 | 魚眼図
 アンデス出身のペルーの国会議員が札幌にいらっしゃるとのことで、3年前の2019年に講演会のお手伝いをした。タニア・パリオナさんはバイタリティ溢(あふ)れる30代の先住民族女性だった。彼女の話の中で、ペルー国内で武力紛争が起こり約7万人もの犠牲者が出て、その内約2万人がいまだ行方不明ということに驚いた。 このときの縁で僕はこの年と翌20年、ペルーを訪れた。タニアさんの故郷アヤクチョは紛争の影響を特 . . . 本文を読む

ニュートンからリンゴへ

2022-04-05 | 魚眼図
 札幌にニュートンのリンゴの木がある。地下鉄南北線北12条駅の近くを歩いていて偶然それを見つけた。側(かたわら)の説明板によると、オリジナルの木は長年にわたってイギリスで接ぎ木されてきた。その分身が東大植物園にやってきたのが半世紀前。さらにそこから北海道の深川へ、そしてこの札幌へと受け継がれてきたという。 今からおよそ350年前のイギリスではペストが大流行していた。若き日のニュートンが所属する大学 . . . 本文を読む

スペルト小麦

2022-04-05 | 魚眼図
 ドイツのパン屋は品数が豊富だ。また日本で人気の柔らかくて甘い「菓子パン」はほぼ見かけず、「ハード系」が主流。だからはじめてドイツでパン屋に入ったとき、皆目見当がつかず、適当に選ぶしかなかった。その一つを食べてみて「おやっ」と思った。ほのかな香ばしさと、しみじみとした美味(おい)しさ。からだが喜ぶ感じがする。「滋味深い」とはこういうことを言うのだろう。表示には「ディンケル(Dinkel)」とある。 . . . 本文を読む

森の教え

2022-04-05 | 魚眼図
 北海道内で森づくりのお手伝いをしている。針葉樹が皆伐された後の土地に、在来の広葉樹の苗木を植えるのがそもそもの活動だ。 その中で特に難しいエリアがある。ササが覆う砂地の斜面で、条件がもともと厳しい。そこに苗木をいくら植えても、シカに折られて全滅を繰り返してきた。 そのため最近の活動は、シカとのたたかいに移っていた。ネットを張ろうが、電牧柵を巡らそうが、シカはくぐったり、飛び越えたりして入ってくる . . . 本文を読む

小川隆吉エカシ

2021-03-16 | 魚眼図
 小川隆吉エカシの笑顔はいつも魅力的だ。しかし、祖先を故郷へ返したときの満面の笑みは格別だった。 北大のアイヌ納骨堂から12箱の遺骨が、2016年7月、日高管内浦河町杵臼への帰路についた。北大の研究者がかつてそのコタンの墓地から遺骨を持ち去ったのだ。その中に小川さんの伯父のお骨も入っていた。祖先の里帰りを実現した感慨はいかばかりだっただろう。 小川さんの人生は、アイヌ民族の権利を取り戻す道のりだっ . . . 本文を読む

オンライン授業の長短

2021-03-16 | 魚眼図
 今年の3月には、こんなことになるとは思ってもみなかった。大学でのオンライン授業のことである。  恥ずかしながら私はZOOMがオンライン会議ツールのことだとすら知らなかった。しかしその後、新型コロナウイルスの感染対策のため、私の勤務先を含めて、世界中の大学でインターネットによる授業が行われることになった。キャンパスライフを楽しみにしていた学生には申し訳なく思う。  第1学期の授業の経験から、オ . . . 本文を読む

土の時間

2020-09-05 | 魚眼図
 土には土の時間がある。そのことにようやく気づくようになった。  札幌市内で小さい土地を借りて耕しはじめたのが3年前。もとは湿地帯で、農地になってからは水田として使われていたらしい。そのためだろう粘土質の赤土で、雨が降ればぬかるみ、乾けば固まって、爪も入らないほどカチカチになる。農薬も肥料も使わず、くわとスコップだけで耕すのが流儀だ。くわで土を起こそうとしたら、刃がグニャリと曲がってしまったのに . . . 本文を読む

「治す」から「治る」へ

2020-01-23 | 魚眼図
 1923年(大正12年)の関東大震災直後、焼け野原となった東京に不思議な少年が現れた。彼が手当てをすると、たちどころに病気が治るというので、人が行列をなして訪れたという。その少年は野口晴哉(はるちか)(1911~76年)。当時、12歳だった。その後、野口は治療家としての道を歩み出し、3年後には自分の道場を構えるまでになった。 しかし、後に野口は治療術を止めてしまう。そのまま続けていれば、富も名 . . . 本文を読む

アンデスのサルワ村

2019-11-25 | 魚眼図
 あざやかな衣装を身にまとった人々が通りを行き交う。男女問わずほとんどの人が山高帽をかぶっていて、そのつばがまたカラフル。さらにそこに花飾りを挿している。美しく着飾ることを楽しんでいるようだ。同じ通りをロバや犬が人に混じって闊歩(かっぽ)している。南米ペルーのアンデス山中にあるサルワ村の情景だ。  初めてこの先住民族の村を訪ねて、衣装など形あるものとともに印象に残ったことがある。それは村の雰囲気 . . . 本文を読む

生きている世界

2019-07-24 | 魚眼図
 眼下に広がる赤い大地に、「これがカントリーだ」と機内から目を凝らした。しばらくすると飛行機は鮮やかな色の海と砂浜を横切って、オーストラリア北西部の町ブルームに降下した。ここはヤウルというアボリジニの1グループが住むカントリーだ。  「カントリー」とは、オーストラリアの先住民族アボリジニにとって、たんなる「国」に留まらない、特別な意味をもつ。その世界への扉を開いてくれる本に『生命の大地』(平凡社 . . . 本文を読む

いのちへの信頼

2019-04-18 | 魚眼図
 こんな人がいたんだ!と、渡辺位(たかし)さん(1925~2009年)のことを驚きをもって知った。渡辺さんは国立の医療機関に勤務する児童精神科医で、不登校の子どもたちと関わった。そういうと、子どもを学校に行かせるための「治療」をしたのかと思うかもしれない。しかし実際はその逆だった。  渡辺さんは、不登校の子どもを異常だとは考えなかった。むしろ不登校とは、学校によって自分のいのちや存在が危うくなる . . . 本文を読む

歓待がつなぐ世界

2019-02-07 | 魚眼図
 日本中を歩いて旅した民俗学者・宮本常一が、晩年にアフリカまで足を延ばした。その記録『宮本常一、アフリカとアジアを歩く』(岩波書店)に印象深いくだりがある。  「明治時代に沖縄糸満の漁夫たちは小さなサバニという漁船に乗ってザンジバルまで魚をとりに来ていたという。平和な交流は目立たないものである。しかし根づよいものがある」  モーターはなく、帆をかけた小型の木の船で、沖縄からはるばるアフリカまで . . . 本文を読む