小田博志研究室

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平和は一人から

2013-10-25 | 平和

 (北海道新聞夕刊<魚眼図>2013年10月24日掲載)

 「全ての平和運動は、最初一人でした。0と1とは違います。一人は微力かもしれませんが、何事もその一人から始まるんです」

 東京都足立区のレトロな喫茶店で、作家の早乙女勝元さん(1932年生まれ)からお話を伺った。私は早乙女さんを前にすると、しなやかな意志の強さを感じる。冒頭の言葉はそれを象徴して、力強い。

 45年3月10日未明。東京の下町に無数の米軍機が襲来し、広大な住宅地を焼夷弾(しょういだん)によって焼き払った。その結果、10万に及ぶ人命が失われ、生き残った人々もまた深刻な被害を受けた。その場に当時12歳の早乙女さんは居合わせた。

 この東京大空襲の実態の調査を、早乙女さんはこつこつと続けてきた。71年の「東京大空襲」(岩波書店)はベストセラーとなった。さらには2002年に民立民営の「東京大空襲・戦災資料センター」を江東区にオープンさせた。早乙女さんはその館長を務める。

 また日本の空襲被害だけに留まらず、中国やベトナムなどの人々が受けた、日本の侵略と占領による被害についても調べ記録している。複眼的な視点である。

 過去の戦争を早乙女さんが伝えるのは、未来のためである。それは「バックミラー」のようなものだと言う。車を安全に運転しようと思ったら、後にも気を配る。同じように平和な未来のためには、歴史のバックミラーが必要だと。

 平和の価値が薄れかけている現在の日本社会。私たち一人一人に、今、何ができるのか。早乙女さんの長年の経験から学びたい。その言葉を直接聴く機会がある。多くの市民に足を運んでいただきたい。

 早乙女勝元講演会「今ならば間に合う、その今に」は10月30日、北海道クリスチャンセンター・ホール(札幌市北区北7西6)で午後6時30分開演。

 (小田博志・北大大学院准教授=文化人類学)


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