小田博志研究室

研究情報とブログを掲載

新十津川のアイヌ・コタンのこと(1)

2024-08-27 | 先住民族
 明治22(1889)年8月に紀伊半島を大水害が襲いました。それは奈良県十津川村に壊滅的な被害をもたらし、家屋と土地を失った村民2,489人が故郷を離れ、北海道に入植することになりました。 熊野古道・小辺路を私が2年前に歩いたとき、その歴史を記した説明板に十津川山中でたまたま出くわしました。十津川の被災者はこの険しい山道を数日かけて徒歩で越え、神戸から船で北海道に向かったーーそれを知り、心が揺さぶ . . . 本文を読む

改訂版 エスノグラフィー入門

2024-07-26 | 研究・教育
『エスノグラフィー入門』の改訂版が昨年出版されました。全面的に読み返して必要な補足修正を加えましたが、ページ番号が変わるほどの大きい変更はしておりません。ご参考までに「改訂版まえがき」と「改定項目一覧」をダウンロードできるようにいたしました。これまでのご愛読に感謝すると共に、これからのご活用をお願いいたします。『エスノグラフィー入門』改訂版まえがき.pdf『エスノグラフィー入門』改訂項目一覧.pd . . . 本文を読む

カンタ!ティモール

2024-04-17 | 魚眼図
 僕らのあやまちを、大地は見ているよ というフレーズからはじまる歌に導かれて、広田奈津子さんは南海の島へと旅立った。その島の名はティモール。その東半分の東ティモールが2002年に独立を果たすまでに、この島の人々は幾多の苦難を経験しなければならなかった。ポルトガルの植民地支配、日本軍の占領、そしてインドネシアの軍事侵攻。そのインドネシアを日本政府が支援し続けたことも忘れてはならない。 広田さんは島の . . . 本文を読む

言葉はことのは

2023-09-09 | 魚眼図
 「言葉」という言葉は不思議だ。なぜ葉っぱの「葉」が付くのだろう。 『古語辞典』(大野晋ほか編、岩波書店)を紐解(ひもと)いてみると、次のように説明されている。口でいうコト(言)と出来事のコト(事)はもともと未分化だった。しかし時代が下ると両者が区別され、事の一端を示すに過ぎない発言や、口先だけの表現もあることから、コトのハ(端)、すなわちコトバというようになった。 これに対して、北大で言語学を講 . . . 本文を読む

脱植民地化のためのポータル

2023-03-01 | 研究・教育
 世界各地の脱植民地化の現場をつなぐポータルサイトを開設しました。 ペルーのアヤクチョ地方、カナダのユーコン準州、そして日本の札幌/サッポロを取り上げ、各地の状況が立体的にわかるコンテンツを収録しています。ぜひご覧ください。 脱植民地化のためのポータル:https://decolonization.jp/ . . . 本文を読む

大地のケア

2023-03-01 | 研究・教育
「スチュワードシップ」という言葉を、カナダのユーコン大学での留学から帰った知人から聞いた時、扉が開かれる思いがした。 ところが、この大事な言葉にぴったりの日本語が見当たらない。まずこれは土地と先住民族との伝統的な関わり方を指す言葉のようだ。その方の説明だと、土地や川や海、またそこに生きる植物や動物の恵みを人が受けながら、それらを守り、次世代に引き継いでいくことらしい。だから近代的な「所有」とは根本 . . . 本文を読む

水の巡り

2023-03-01 | 研究・教育
 熊野古道のうち、高野山と熊野本宮とを結ぶ道を小辺路(こへち)という。全長70キロ程だが1千メートル級の峠を何度か越えるため、それなりの準備が要る。その道を8月に3泊4日かけて歩いた。 道中最高峰の伯母子岳(おばこだけ)を越える2日目が、私にはもっとも厳しかった。水筒の水が無くなり、ガイドマップに載っている水場が頼り。延々と続く登りの末に、水場はあった!この一筋の水がただありがたい。 その先の道す . . . 本文を読む

高野山大学

2022-07-06 | 魚眼図
 教室の窓の向こうに森が広がり、時おり鐘の音が聞こえる。室内には剃髪(ていはつ)で作務衣(さむえ)姿の学生さんたちもいる。私はいま研究休暇をいただいて、ここ高野山大学(和歌山)に国内留学をしている。空海の思想がわかるようになりたいと思ったからだ。高野山は八つの峰々に囲まれた山中の盆地で、弘法大師空海は約1200年前ここに「修禅の一院」を開いた。実はこの地の「大学」には長い歴史がある。 約500年前 . . . 本文を読む

殺すなかれ

2022-04-05 | 魚眼図
 アンデス出身のペルーの国会議員が札幌にいらっしゃるとのことで、3年前の2019年に講演会のお手伝いをした。タニア・パリオナさんはバイタリティ溢(あふ)れる30代の先住民族女性だった。彼女の話の中で、ペルー国内で武力紛争が起こり約7万人もの犠牲者が出て、その内約2万人がいまだ行方不明ということに驚いた。 このときの縁で僕はこの年と翌20年、ペルーを訪れた。タニアさんの故郷アヤクチョは紛争の影響を特 . . . 本文を読む

ニュートンからリンゴへ

2022-04-05 | 魚眼図
 札幌にニュートンのリンゴの木がある。地下鉄南北線北12条駅の近くを歩いていて偶然それを見つけた。側(かたわら)の説明板によると、オリジナルの木は長年にわたってイギリスで接ぎ木されてきた。その分身が東大植物園にやってきたのが半世紀前。さらにそこから北海道の深川へ、そしてこの札幌へと受け継がれてきたという。 今からおよそ350年前のイギリスではペストが大流行していた。若き日のニュートンが所属する大学 . . . 本文を読む

スペルト小麦

2022-04-05 | 魚眼図
 ドイツのパン屋は品数が豊富だ。また日本で人気の柔らかくて甘い「菓子パン」はほぼ見かけず、「ハード系」が主流。だからはじめてドイツでパン屋に入ったとき、皆目見当がつかず、適当に選ぶしかなかった。その一つを食べてみて「おやっ」と思った。ほのかな香ばしさと、しみじみとした美味(おい)しさ。からだが喜ぶ感じがする。「滋味深い」とはこういうことを言うのだろう。表示には「ディンケル(Dinkel)」とある。 . . . 本文を読む

森の教え

2022-04-05 | 魚眼図
 北海道内で森づくりのお手伝いをしている。針葉樹が皆伐された後の土地に、在来の広葉樹の苗木を植えるのがそもそもの活動だ。 その中で特に難しいエリアがある。ササが覆う砂地の斜面で、条件がもともと厳しい。そこに苗木をいくら植えても、シカに折られて全滅を繰り返してきた。 そのため最近の活動は、シカとのたたかいに移っていた。ネットを張ろうが、電牧柵を巡らそうが、シカはくぐったり、飛び越えたりして入ってくる . . . 本文を読む

将来世代の平和のために ~ 世代間平和を語り合う集い(3月23日)

2022-03-12 | 平和
将来世代の平和のために ~ 世代間平和を語り合う集い平和を子どもたちへ手渡す。これが大人たちの一番の願いのはずなのに、現代の世界では、暴力、差別、支配、環境破壊の連鎖が世代間で続いてしまっています。どうすればこれを断ち切って、将来世代が安心して幸せに生きられる、平和な世の中を実現できるのでしょうか。この根本的な問いを、私たちは高所から論評するのではなくて、自分たちの人生にひきつけて考え、そこから出 . . . 本文を読む

小川隆吉エカシ

2021-03-16 | 魚眼図
 小川隆吉エカシの笑顔はいつも魅力的だ。しかし、祖先を故郷へ返したときの満面の笑みは格別だった。 北大のアイヌ納骨堂から12箱の遺骨が、2016年7月、日高管内浦河町杵臼への帰路についた。北大の研究者がかつてそのコタンの墓地から遺骨を持ち去ったのだ。その中に小川さんの伯父のお骨も入っていた。祖先の里帰りを実現した感慨はいかばかりだっただろう。 小川さんの人生は、アイヌ民族の権利を取り戻す道のりだっ . . . 本文を読む

オンライン授業の長短

2021-03-16 | 魚眼図
 今年の3月には、こんなことになるとは思ってもみなかった。大学でのオンライン授業のことである。  恥ずかしながら私はZOOMがオンライン会議ツールのことだとすら知らなかった。しかしその後、新型コロナウイルスの感染対策のため、私の勤務先を含めて、世界中の大学でインターネットによる授業が行われることになった。キャンパスライフを楽しみにしていた学生には申し訳なく思う。  第1学期の授業の経験から、オ . . . 本文を読む