NHKの「日めくり万葉集」で、
葦辺行く 鴨の羽がひに 霜降りて 寒き夕へは 大和し思ほゆ
志貴皇子 (巻1・64)
葦辺を泳いで行く鴨の背に霜が降って 寒い夕暮は 大和が思われる
が紹介されました。
昨年の10月のブログで「鴨の羽がひ」と題し掲出しましたが、
この歌に使われている「霜」という言葉で
旅人(たびびと)の宿(やど)りせむ野に霜降らばわが子羽ぐくめ天の鶴群(たづむら)
巻9ー1791番 「遣唐使の母の歌」があります。
大事なわが子が中国に旅することになりました。お母さんは心配しながら見送ります。子どもが遠く離れたところに行って、寒いときにはどうするのかなあ、と心配しています。そんなとき、空を飛んでいる鶴よ、その羽で包んでやってちょうだい、とお母さんはいっています。お母さんは何を願うのか。
「心の温かさが本当のあたたかさ。」
着るものも大事ですが大事だけれども、本当に大事なのは心だ。セーターはセーターの程度にしか暖かくならないけれど、心のあたたかさを思うと、その温かさがプラスされますね。とくにお母さんを思い出すと心が温かくなる。
「中西進の万葉のみらい塾 朝日新聞社P237から」
歌の全体から心に響く母の愛情を感じます。
またこの歌の中に登場する「羽ぐくむ【他マ四】」という言葉。漢字で書くと「育む」と書きます。
①親鳥が羽の下で雛を育てる。羽で包みこむ。
②子どもを大事に育てる。大切に世話をする。
という意味の言葉です。
羽で包むという具象的な世界に、なんと温かみの情景を浮き上がらせる言葉でしょうか。