久々の乙一の新作。ここ数年彼は書いていないと思う(特に単独著書はない)。その間、彼は人生上の大きな節目を経験する。それは結婚という彼にとっては意外と普通の人のするなる経験だ。でも僕はまるで彼にそぐわない出来事が彼の作品にどれだけ影響を与えるのかすこぶる興味があった。そしてこの新作の登場である。
6篇の短編集である。これは読者からWEBで募ったボツ案を乙一が再生したという文学界でも珍しい作品集である。だからこそ珍しくあとがきを書いたのだろうが、そのあとがきを読むまではそれさえ気づかないほど見事乙一の世界に入り込めた。
彼の文学の底流に流れる静寂感。そしてそれは生きることへの切なさをぐんぐん感じさせるものであり、現代文学でもこの作風は珍しい作家だと思う。この年になって僕がこんなに若い作家を読んでいるというのもある意味恥ずかしいが、年齢を超えて心が心を求めているそのことを彼が一番良く知っている、とでも言おうか、、。
6篇ではすべてやはり素晴らしいが、ラストの「ホワイトステップ」はパラレルワールドもので、そのみずみずしさに圧倒された。こういうタラレバの世界は僕もよく日常的に思考していたものである。
地味だけど「青春絶縁体」も素敵だ。二人だけの文芸部室。孤独な二人が静かな灯を見ている。これぞまさしく青春。今僕が完全に忘れ切っているものだ。その余韻に浸る。
と、思っていたより彼の実体験は作品上では影響は窺えなかった。そんなものなのだろう、、。
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