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自縄自縛日記

佐藤洋一郎『食の人類史』

2016-07-10 08:40:58 | 食べ物飲み物

佐藤洋一郎『食の人類史 ユーラシアの狩猟・採集、農耕、遊牧』(中公新書、2016年)を読む。

食べ物はそれぞれルーツを持つ。そして輸送はそう簡単ではなかった(とくにタンパク質)。このことが食文化の違いを生み出してきた。たとえばアジアにおいては「コメと魚」、ヨーロッパにおいては「肉とミルク」である。

原初は個々の交換や取引、のちの市場経済は、たしかに食と土地との結びつきを大きく歪めてきたことがよくわかる。ヨーロッパはもともと肉食中心の土地であった。パンは決して昔からの主食でもなんでもなく、中東にルーツを持つ麦(特に小麦)が入ってくるも、中世においても手に入れやすいものではなかった。アンデスをルーツとするジャガイモはさらに遅く伝播し、たくさん栽培されるようになるが、19世紀のジャガイモ飢饉によって多くの餓死者を出すことになった。多様性よりも食糧生産を重んじた結果である。

わたしたちは、日本の稲作は、弥生時代に、朝鮮半島からの渡来人がもたらしたものと学んできた。面白いことに、著者によれば、その物語もいまや確たる根拠を持たないのだという。縄文時代にも稲作が行われていた証拠があり、一方、朝鮮半島にも縄文土器が見つかっている。従って、時期の区切りも、移動のヴェクトルも、さほど単純ではなく、実際のところはよりファジーな交流によって稲作が広まってきたことになる。

他にも、小麦を中東から東方に運んだのは誰なのか、照葉樹林文化という観念が長い歴史のダイナミズムの中で本当に確実なとらえかたなのか、氷期の到来や温暖化の進行など環境変動が文明の盛衰をもたらしたとする説は本当か、など、興味深い指摘が本書にはたくさん散りばめられている。

しかし、残念ながら、専門論文とは異なる一般向けの新書としては、明らかに詰め込み過ぎだ。ああでもない、こうでもないと、饒舌な独り言をまき散らしている印象ばかりが残る。情報量を4分の1にして、よりわかりやすくまとめるべきである。

●参照
佐藤洋一郎・赤坂憲雄編『イネの歴史を探る』
佐々木高明『照葉樹林文化とは何か』


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