Sightsong

自縄自縛日記

『インパクション』、『週刊金曜日』、チャベス

2007-09-12 23:30:48 | 中南米

安倍首相が辞任を表明した。

批判は腐るほどあるが、それは置いておいても、「テロとの戦い」を、「悪者をこらしめる聖戦」のように語り続け、また辞任を伝えるテレビニュースでも無批判に使っているのが激しく気になった。このミニ米国ぶり、しかも当の米国内でも、テロ対策に名を借りた武力行使に関して議論が多くなされているのに。

海外の報道では、靖国のこと、慰安婦に対する態度のことなどを報じている一方、こちらの報道では、安倍政権を振り返る映像において不祥事と参院選のことばかりを提示している。 決められたひとつの報道方針にのみ依拠する駄目ディアだ。

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沖縄県の高江における強権的・暴力的なヘリパッド建設問題について、24wackyさんが、『インパクション』(159号)に書いている。「日常生活で隠蔽された国家の暴力」が顕れているサイトが辺野古やこの高江であること、さらにこれは沖縄という地域問題にとどまらないことを指摘している。 同誌では、辺野古での行動と発信を続けている浦島悦子氏が、ご自分の気持ちの激しいゆらぎを書いている。一方、『週刊金曜日』(2007/9/7)では、辺野古で政府により強行されている「違法調査とでたらめアセス」について報告している。

ジュゴンやサンゴの保護、住民の生活と安全の確保、それから米国の戦争への加担をしないこと、こういった明白に必要なことを考えれば、強行する当事者たちはきっと悔いるはずだ。

注目すべき動きとしては、米国の「ジュゴン訴訟」が挙げられている。沖縄ジュゴン、沖縄住民、日米の環境保護団体が、米国防総省と国防長官を被告としてサンフランシスコ連邦地裁に提訴しているものだ。9/10から公判、半年以内に判決、そして勝利の目が十分にあるとのことだ。これも気に留めておきたい。

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さて、『インパクション』の本特集は「ラテンアメリカの地殻変動・その可能性と問題点」。ベネズエラやボリビアをはじめ、反米政権として主に報道される国々について、他の見方を提供している。

やはり最大の問題点のひとつは、米国に押し付けられてきた新自由主義経済(ネオリベラリズム)的な体制構築とそれによる格差拡大米国の傘の下への組み込み多様な価値観の抑圧、といったところだ。

これに対するベネズエラのチャベス政権を中心とする反応は、大きな政府の取り戻し、エネルギーという自国資源の活用、そしてラテンアメリカというバウンダリーでの政治・経済の地域主義だ。良し悪しを評価する前に、ラテンアメリカ内の国々でも状況が異なり、さらに日本とはあまりにも立つ位置が異なる。日本はエネルギーや資源を止められたら生きていけない状況に自ら追い込まれているし、視線は地域というより米国(これを「国際社会」とも称する)に向いている。

ただ、単なる「左傾」や「反米」ではないこと、自分たちの利益だけを考えたナショナリズムにはとどまらないこと、などについては認めておくべきだと思った。つまりは、私たちは対米追従やこれまでの路線継承だけでなく、ほかのオルタナティブをエネルギッシュに追求してもよいのではないか、ということだ。

それにしても、ベネズエラのチャベス大統領はきわめて魅力的な人物にみえる。『反米大統領チャベス・評伝と政治思想』(本間圭一、高文研、2006年)を読むと、その具体的な姿が見えるとともに、やはり、日本との大きな違いが明らかになってくる。

○祖国独立の父、シモン・ボリバルの名前を頻繁に使っているように、抑圧という負から湧いてくるエネルギーがある。
○軍隊の存在が、政治体制の確立において前提となっている。
○貧困レベルの引き上げが、政策の評価を左右する。
○エネルギーという最大の利益源を持っている。それによる利益は、エネルギー相場によって変動し、また政策の予算に直結している。
○メディアの動きが極端で、時として政治的な力を持つ。

この、メディアの役割については、『インパクション』では廣瀬純氏の論文でさらに明確にされている。メディアが実際に政党的な機能を担っており、私たちの考える中立性とはずれているということだ。(これも24wackyさんが整理している。)

ラテンアメリカというと、きわめて乏しい情報と偏った印象(とくにキューバのカストロ)が一般的であり、私たちの社会と前提があまりにも異なる。しかし、実際には自立の新たな機運を見せている現在こそ、注視していくべきなのだと思っている。


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3 コメント

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Unknown (24wacky)
2007-09-13 10:25:43
紹介ありがとうございます。

>つまりは、私たちは対米追従やこれまでの路線継承だけでなく、ほかのオルタナティブをエネルギッシュに追求してもよいのではないか、ということだ。

同じ動機からチャベス政権の「新しい社会主義」の可能性を注視したい。
廣瀬純氏の著作を今注文しています。

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Unknown (tamara)
2007-09-13 17:41:37
安倍首相の辞任劇はテレビではもはやワイドショー的に扱われていますね。これで本当に一国の首相だったのでしょうか。新聞での評論家の意見は「辞める時期がまずかった」というような主張が多かったです。時期の問題ではないでしょうに。

ベネズエラですが、今とても興味をひかれます。この間、BSで取り上げていた音楽についての番組にはとても感動しました。
(今日はコメント入ったようです。)
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Unknown (Sightsong)
2007-09-13 22:47:24
24wackyさん
私は太田昌国氏の『暴力批判論』を読んでいます。これも、暴力という解決策を排除するための歴史的な蓄積、といった考えを育てていこうとする刺激的な書です。廣瀬純氏の著作について、感想を期待しております。

tamaraさん
まったく、時期の問題ではないですね。いまは首相の病状と後継者レースのことが話題の中心です。教育や改憲や軍備のことなど、本質的な議論の提起すらされていない、というか、回避されているように思えます。ヴェネズエラの音楽番組は見ていませんが、興味深そうですね。
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