Sightsong

自縄自縛日記

天児慧『巨龍の胎動』

2009-11-03 23:04:10 | 中国・台湾

天児慧『巨龍の胎動 毛沢東vs鄧小平』(講談社、2004年)は、文字通り、革命、建国から現在に至るまでの中国の歴史を、毛沢東と鄧小平という巨大な政治家の動きを通じて描いている。あらためて追いたいところだったので、非常に興味深く読むことができた。

社会主義国家、そして中国という壮大な社会実験を主導し、死後もなお影響を及ぼし続けている、この2人の存在を追ってしまうと、もうこのような政治家は現われないのではないかとさえ思われてくる。現在ですらそうなのであるから、情報が伝わらず文化大革命が「偉大な革命」として脚光を浴びたという同時代において、毛沢東の存在感は凄まじいものであったのだろうなと想像する。

著者は、毛について、具体的な敵がいればきわめて冷徹に辛抱強くなれたのだが、目に見えない政治という目標に対しては得意でなかったという。毛は人間の主観的な頑張りや能動性に過度に依存した。そのような精神性が、大躍進政策や文革の破綻、党内部の闘争を生み出した一因だとしても、日本や西側には、「魂に触れる革命」として受け入れられることにもつながったのだろう。それにしても、政敵たちを利用し、追い落として行く毛の策士ぶりはもの凄い。

鄧小平は一貫して毛の弟分であった。失脚時の処分緩和にも、復活にも、毛の意向が強く働いていたようだ。鄧の経済開放政策は毛とはまったく異なるものの、あまりにも手堅い権謀は毛の姿と重なっている。毛は紅衛兵を文革時奪権の段階で利用し、後で切り捨てた。そして鄧は華国鋒グループとの闘争時に民主活動家の主張を擁護したにも関わらず、危険な対象と見なし、後の第二次天安門事件では戦車で押し潰した、というように。

鄧の進めた国づくりの路線は、手の付けられない大国を生み出してしまっている。いま誰と話しても、今後は中国の世の中だ、中国には絶対に叶わない、という言葉が出てくる。もちろん私も本気でそのようなことを口にしている。一方では、格差(日本とは比べようもない格差社会である)、環境、少数民族などあまりにも危ういところに立っているのであって、マクロ的な成長優先のビジョンをじわじわと転換しなければ、何らかのカタストロフの姿が見えてきそうな気がする。

本書では、胡耀邦趙紫陽の失脚に至るプロセスについても見せてくれている。英語版が敢えて先に出て、後に中国語版も出た趙紫陽の手記(もちろん中国の大書店では目にしない)の日本語訳を、早く読みたいところだ。なお、第二次天安門事件の直前における動きは、加々美光行『現代中国の黎明 天安門事件と新しい知性の台頭』(学陽書房、1990年)に詳しい。

著者は随分と楽観的であるようだ。たとえば、国民の平和意識が戦後根付いたため、日本の再軍国化はありえないと断定しているが、これはどんなものか。

それは置いておいても、台湾と中国との関係については、歴史を辿ることで決着点を見いだせるはずだとする主張は、確かに示唆的だと感じた。孫文のビジョンにまで遡り、国民党と共産党とは「憎しみ合い戦い合いながらも、「対話のできる相手」」なのだと説いている。

「ロシアからコミンテルン代表のボロディンを国民党最高顧問に迎え、中央執行部への権力の集中、赤軍に相当する国民革命軍の建設と軍官学校の設立など、かなりの点でソ連型革命組織を模倣した。それ故、中国共産党と中国国民党は、共産主義と三民主義を「母」とし、ボルシェビキを共通の「父」とする「異母兄弟」としても過言ではなかった。」

●参照
『情況』の、「現代中国論」特集
加々美光行『現代中国の黎明』 天安門事件前後の胡耀邦、趙紫陽、鄧小平、劉暁波
加々美光行『中国の民族問題』
竹内実『中国という世界』
中国プロパガンダ映画(3) 『大閲兵』


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Sightsong)
2009-11-04 06:49:48
ひまわり博士さん
氏の著作を読むのはこれがはじめてです。『中華人民共和国史』、ちょうど10年前の本なのですね。まだ品切れではないようですし、今度探してみます。
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Unknown (ひまわり博士)
2009-11-04 03:29:36
天児さんのこの本は知りませんでした。なかなかの大作のようですが、シリーズ物はつい視界から外れてしまいます。
岩波新書の『中華人民共和国史』がなかなかよく書けています。お読みになりましたか。
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