Sightsong

自縄自縛日記

ラースロー・リスカイ『カルロス 沈黙のテロリスト』

2013-02-17 00:30:14 | ヨーロッパ

ラースロー・リスカイ『カルロス 沈黙のテロリスト』(徳馬書店、原著1992年)を読む。

著者はハンガリー人ジャーナリスト。国際テロリスト・カルロスは、ブダペストを拠点のひとつとしていた。勿論それは、ハンガリーが社会主義陣営の国だったからであり、カルロスは、資本主義国家を敵としていたからである。

本書を読むと、若い頃には社会主義や革命へのロマンチシズムに溢れていたカルロスも(その雰囲気は、オリヴィエ・アサイヤス『カルロス』にうまく描かれている)、やがて、カネで雇われるテロリストに堕していく様子がわかる。資金源は、カダフィ大佐のリビア、チャウシェスクのルーマニア、サダム・フセインのイラクなど様々であった。カダフィは、カルロスの提案する米国レーガン大統領暗殺計画を現実味がないとして退け、また、エジプトのサダト大統領暗殺についても話し合っていたという(それを実行に移す前に、別の者により暗殺されてしまう)。

しかし、そのようなことよりも、カルロスのような危険極まりないテロリストを、複数の国が抱えていたという構造が成り立っていたということに、驚かされてしまう。

社会主義・共産主義国家といっても、当然、一枚岩ではない。ハンガリーは、ルーマニアにおいてハンガリー系住民が抑圧されていることへの不満を抱いており、テロリストがルーマニアに行くことを警戒していた。軋轢は、東ドイツ、ソ連、キューバなどを含め、それぞれの間にあった。そして、西側諸国との関係も、冷戦中であっても、敵対一辺倒ではなかったため、テロリストにおかしな動きをされても困った。しかし、テロリストを単に自国から締めだして、自国が標的になるようなことは避けなければならない。そのような、緊張がうみだす間隙があったからこそ、カルロスは泳ぎ続けることができたのだと思える。

冷戦が終わり、ハンガリーでもカルロスに関する機密文書が公開され、そしてカルロスは本書が書かれた直後に逮捕されている。世界は変わった。それでも、テロは形を変えて存在し続けており、テロに向き合う態度もずいぶんと様変わりしている。その変貌がいかなるものであったのか、把握したいところだ。

●参照
オリヴィエ・アサイヤス『カルロス』


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