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自縄自縛日記

宮本常一『私の日本地図・沖縄』

2012-05-16 00:43:30 | 沖縄

宮本常一『私の日本地図・沖縄』(未来社、原著1970年)を読む。

全国津々浦々を歩き回った宮本常一だが、沖縄には、三度だけ、しかもごく短い時間しか訪れていない(1969年、1975年、1976年)。本書は最初の訪問時の記録であり、1972年の施政権返還を直前に控えた時期であった。そのとき、沖縄本島、久米島、津堅島、浜比嘉島、伊江島をまわっている。

短い観察日記とでもいった雰囲気の記録である。だが、たとえば経済について、建設ではなく破壊を目的とする米軍基地が何も生み出さないことや、オカネが結局は「本土」に還流することを見抜いている。現在にまで続くがらんどう経済の構造である。観察眼の鋭さはさすがだ。

その一方で、日本への精神的な近さを何度も強調していることには、正直言って、違和感を覚えざるを得ない。源為朝が琉球に漂着し、王家に入っていったとする伝説についても、正統を位置づけるための物語や日琉同祖論という欲望という文脈ではなく、沖縄から見た日本への内的な距離という文脈でのみ片付けている。これが宮本常一の潜在的な欲望でもあったとするのは穿ちすぎだろうか。

また、沖縄人の立場にたって、離島の開発を希求することも特徴的だ。そこでは、金武町の石油備蓄基地も、大規模ダムも、開発のために必要なものとして位置づけられている。そのことの限界は置いておいても、たんなる守旧的な視線ばかりではなかったということである。

ところで、宮本常一の使っていたカメラはオリンパスペンの何かであったと記憶しているが、これが吃驚するくらい下手クソである。宮本にとって、写真は作品ではなかった、のだろう。

●参照
柳田國男『海南小記』
村井紀『南島イデオロギーの発生』
伊波普猷の『琉球人種論』、イザイホー
伊波普猷『古琉球』
屋嘉比収『<近代沖縄>の知識人 島袋全発の軌跡』
与那原恵『まれびとたちの沖縄』
岡本恵徳『「ヤポネシア論」の輪郭 島尾敏雄のまなざし』
島尾敏雄対談集『ヤポネシア考』 憧憬と妄想
島尾ミホ・石牟礼道子『ヤポネシアの海辺から』
島尾ミホさんの「アンマー」
齋藤徹「オンバク・ヒタム」(黒潮)
西銘圭蔵『沖縄をめぐる百年の思想』
『海と山の恵み』 備瀬のサンゴ礁、奥間のヤードゥイ
小熊英二『単一民族神話の起源』


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