仲里効『沖縄戦後世代の精神史』(未來社、2022年)。
50年ほど前の「復帰」あるいは「施政権返還」とは何だったのか。日の丸を振って大歓迎する機運が高まった一方で、新川明が「反復帰論」を、また岡本恵徳が「水平軸の発想」を唱えた。だが国家やルーツという物語から距離を置き、個や社会をとらえなおそうとする思想は、決してかれらだけのものではなかった。いかに自らを解放するかという手がかりは、ひとつふたつの思想からのみ得られるものではない。
自分としては、写真家・島尾伸三についての分析が、取り上げられている人たちの中でひときわ興味深い。かれの写真には、たとえば、次のような宙ぶらりんのキャプションが添えられていることが多い。
[香港/覚醒など夢のまた夢なのに、]
[台北/靴の泥が主人面して気持ちに居座っていて、]
著者はこのような特性が「統辞を脱臼させ問いかけを重ねていく<読点>に、入口と出口を謎にかけるような文体の異風にあった」と、さらには「<読点>とはほかならぬ写真という光学の自我でもある」とする。慧眼というべきだろう。そしてこの極私的な表現は、かけがえのない人への「恋文」として発展していった。島尾伸三の作品が魅力的な理由はこのあたりにもある。
●仲里効
仲宗根勇・仲里効編『沖縄思想のラディックス』(2017年)
仲里効『眼は巡歴する』(2015年)
仲里効『悲しき亜言語帯』(2012年)
仲里効『フォトネシア』(2009年)
仲里効『オキナワ、イメージの縁』(2007年)